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生贄と白竜2

 やれやれ、と白竜は首を横に振った。生贄であるサザナミが池のほとりからやや離れた場所に段々畑を作っているからだ。
「貴殿から頂く魚もよいが……私は野菜も食べたくてな」
「それは此方も同じだけど……」
 野菜の種や苗を調達するのは白竜の仕事である。
 白竜は伝言役が大の苦手だった。
 白竜は先代から白竜の座を引き継いだばかりの若輩者。集落の者たちと深く関わったことがない。
 集落の者共は白竜が代替わりするものだとは思っていないだろう。何百年も生き続け、たった一匹がこの地に鎮座しているとばかり思っているに違いない。だからこそ生贄の儀式を続けているのだ。
「そういえば、五十年前の生贄はどうしたのだ」
「ああ、あのお婆ちゃんね」
「……寿命かぁ」
「そうよ。だいたい死んでも支障のない人間が選ばれるのよ。あんたも同じでしょ? よそ者だからどうなっても構わない」
 あの村はだんだん幼稚になっていくのよ、と白竜は吐き捨てる。なるほど、自分自身の安全ばかりで他者を省みない身勝手さは確かに幼子のわがままのようだ。
 ならばどうやって野菜の苗を手に入れるか。
「矢文でもつかって要求できればいいけど、そう都合よくは……」
「できるぞ。矢文」
「……あんた、矢、射れるの?」
「自分で食料を調達せねばならぬ身だったからな」
 都合よくいくらしい。
 しかし二人はそこで黙った。
 弓矢がない。