掛け金は魂
「あ、どうも。拙者、死神です」
ま緑色の人間は、俺の目の前でそう抜かした。
皮膚も、爪も、髪も、瞳も、着ているものも全て緑色な謎の輩だ。
あまりに奇抜な外見すぎて恐怖心が麻痺していた俺は、男だから女だか分からない輩に思わず話しかけてしまっていた。
「河童かなんかの間違いだろ」
「酷い事おっしゃる」
緑色のセーターと緑色のチノパンの上から緑色のコートを羽織ったそいつは、特に傷ついた風でもなく返してくる。
赤いものが見たくなってきた。
緑色ばかり見ていたからだ。
俺は知っている。緑色ばかり見ていると、緑の補色関係にある赤い色を見たくなってくるのが、人間の本能なのだ。
さてはこいつ、補色である赤……つまり血を、俺に見せるつもりか。
俺を血まみれにして殺すつもりなのか。
緑色の自称死神は、コートの中をまさぐる。出てくるのはナイフか、拳銃か。心臓が早鐘を鳴らす。
死神が、腕を引き抜いた。
「ええと、貴殿は向こう五十年安心プランにご入会されてまして」
出てきたのは、書類。
保険の内容らしきものが書かれた、紙束。
「天国行きは保証できませんが、これから積む徳によってサービスが充実いたします故」
「おい、緑色の意味は?」
「あ、拙者、死神派遣レンジャーのグリーンと申します」
拍子抜けもいいところだ。