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魔女のキス

「魔女にキスされた者は、人間ではいられなくなるのよ」
 私の唇にキスをしてきた魔女はそう言った。
 柔らかい唇の少女は私よりだいぶ年下に見えるが、その実二百年を生きた存在なのだという。
 馬鹿げているなと心で呟いて、少女……シュガーを見た。
「あなたはもう、人間じゃないの」
「そういう暗示はお断りだね」
 シュガーだなんて甘ったるい名前を名乗っている魔女は、箒に乗って宙に浮いている。
 服装はなんというか、魔女というより魔女っ娘というか……変身ヒロインのようなアイドルじみた外見をしていた。
「キスをするのは契約の証よ」
「私はその契約を了承していない。無効契約だ」
「でも、キスしたでしょ?」
「私は嫌がった」
 シュガーの顔色がどんどん曇っていくのが見える。私が人間をやめようとしないからだというのは自明だった。
 どうして、と彼女は呟く。
 私は尋ねた。
「そうやって無理やり言うことを聞かせて楽しいのか」
「私、魔女よ? 人間の倫理観なんて関係ないわ」
「そうやって強制的に僕(しもべ)を作って嬉しいのか」
「だって、私、魔女だもの」
「そうやって本当に慕ってくれているわけでもない人々に囲まれて寂しくないのか」
「でも……私は……」
 魔女の声が小さくなっていく。
 私はため息を一つ。箒に乗って浮いている魔女の頬に、キスを落とす。
 驚いた表情でこちらを見る彼女に、私は告げた。
「友達から地道に始めていくつもりはないのか」
「……ある」
 彼女の小さな返事が、夜中の住宅街に響いて消えた。