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狂い咲き、狂い咲く

 我が家の庭の、狂い咲きの桜が喧しく散っている下で出会った少女は、ずっとずっと此方を見ていた。毎年毎年こちらを見ていた。
 何か用なのかと尋ねても、今年も彼女は黙ってこちらを見る。
 その面影にどこか覚えがあった気がした。
 この桜の木は季節を問わず気まぐれに咲き誇り、そして花びらを散らす。あまりにも有名になってしまったために、狂い咲きといえばここの桜を示すものとして定着してしまったほどだ。
 なんでも、下には死体が埋まっているとか。死体ではなくオーバーテクノロジーで花が咲く時期をずらされているとか。出鱈目な噂が飛び交っている。
 自分は一度家に帰り、桜の下にいる少女のことを思い出そうとアルバムというアルバムを引っ張り出してみた。
 中学生の頃、小学生の頃、幼稚園児の頃。どれを見ても彼女はいない。
 ならばと取り出したのは母が子供の頃の写真である。そこに彼女はいた。
 聞いたことがある。母が幼い頃、姉が交通事故で亡くなったのだと。その「姉」……自分にとっては「伯母」が、当時赤ん坊だった母を抱っこして、こちらをじっと見ていたのだ。
 自分はもう一度桜の下に行った。
 そこにはまだ伯母がいた。
 少女の姿でこちらをじっと見つめている。
「初めまして、桜おばさん」
 彼女の名前を呼ぶと、彼女はそこでようやく笑ってくれた。しっかりとした笑みだった。
「母は元気ですよ。それから、叔父も」
 うんうんと頷く桜おばさんは、少女の姿のままだが、中身は立派に大人なのだろう。しみじみと喜びを噛み締めている……そんな表情で此方を見ていた。
「そういえば、昔はこの桜の下でお花見をしたんだって、母が言っていました」
 伯母は頷く。
「思い出の桜なんですね」
 すう、と伯母の姿が消えていく。まるで自分から妹、弟の現在と、思い出話を聞きたかっただけのように。
 実際そうなのだろう。残していった家族が健やかに暮らしていられるかが心配だったのだ。だから毎年桜の下に現れたのだ。

「母さん、次に桜が咲いたら花見でもしないかい」

 そう尋ねたら、背後で嬉しそうな子供の笑い声が聞こえた。