冷えて二人
冷えた部屋の中で一人座り、読書に夢中な男がいる。
線が細い彼は、昼食にと用意されていたスープとおにぎりさえ口にしていないようだった。
呆れたようにそれを見る大柄な男が、わざとらしく音を立てて部屋に入ってきた。
「なんだ、帰ってたのかい?」
癖のない黒髪を後ろで束ねた細い男が、振り返りながら微笑んで言った。
「食事くらいとれとあれほど言っただろう」
「気が向いたら取ろうかと思って……忘れてしまったんだよ」
「お前はいつも忘れる」
「なら今、食べさせておくれよ」
大柄な男は押し黙った。
暖房もつけられていない、薄暗い部屋の中。
冷えたおにぎりとスープを前に、細い男が笑う。
「……待っていろ、今あたためてくる」
観念したようにため息をつけば、細い男は上機嫌で本を閉じた。
「僕は口を開けて待っているよ」
「匙をやるから自分で食べろ」
「あーんって、しておくれ。昔みたいに」
「子供の頃の話を持ち出すんじゃない」
冷えた部屋で二人立ち、遅めの昼食をとろうと台所へ向かう。
なんでもない会話が暖かかった。