×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

妖怪の屋敷

 そこに行けば妖怪になってしまうという噂の廃屋があった。
 何でも、人間をやめさせられ、妖怪として生まれ変わってしまうという。そんな廃屋があるものかと誰もが取り合わなかったし、度胸試しでカメラを持って入り込んだ少年少女たちは皆呆気にとられた顔で戻ってくるのだった。
 彼らいわく、何もなかったとのこと。
 だから、今度は私が行くのだ。
 特に捨てるものも何もない私が、カメラも持たずに入ってみるのだ。

 廃屋というだけあって床板は割れていて、天井も崩れ落ちていた。床からはところどころ雑草が生えていて、この屋敷が屋敷としての形を保っているのは、草花や樹木の力によるところが大きいのだなと感じさせられる。
 廃屋の奥深くまでやってきて、引き返そうと振り向いたときだった。猫が目の前を横切り、半開きの引き戸の中へ吸い込まれるように入っていったのは。
 つい、その引き戸を開けてみた。
 そして、妖怪の意味を知った。
 引き戸の奥は表側と違って生活感に溢れており、ただの民家として機能していたのだ。そこに暮らしている人、人、人。
 おそらく皆、戸籍がない。
 人間である暮らしを捨てて、世捨て人として生きることを決心した人々が、そこでひっそりと暮らしていたのだった。
 人間ではないなら、妖怪か。
 よく言ったものだ。
「私は人の世に戻りますよ」
 お邪魔しました、と頭を下げて、私は戸籍のない人々に別れを告げた。
 叶うことならば、彼らがこれからも平穏に過ごしていられるよう、私のような不躾な侵入者が出ないことを祈るばかりだ。