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生贄と白竜

 山奥にある小さな集落では山神様に供物を捧げる風習が残っていた。
 五十年に一度という、因習が風化されないように定めた期間で山に送られる供物。それは間違いなく人間だったが、集落の誰もが供物を人間として扱わなかった。
 扱う必要がなかったからである。
 罪人や身寄りのない者、怪我人、病人、生産能力の低い者。人として一段劣ると勝手に決め付けた相手を生贄にしているからだ。自分たちはこの者よりも上だから大丈夫。薄汚い安心感にまみれた村人たちが、縄で縛り上げた贄と共に山を登っていく。
 中腹にある池のほとりに建てられた祠の前で、サザナミは座らされた。
 かわいそうに、空腹だったために民家の軒先に忍び込み吊るしてあった柿を盗み食いしただけの旅人は、これ幸いと集落の者どもに取り押さえられ人身御供として選ばれてしまったのである。村の者は皆わが身が恋しいのだ。
 形だけの祝詞を終え、村人たちは帰っていく。
 異変は池のほうから起こった。
「人間を食うのは先代よ」
 男のような女のような、入り混じった声が聞こえてくる。
「いい加減にお野菜でも奉納して欲しいところよねぇ」
 池の奥底から白い影が競り上がってくるのを、縄で縛られ身動きが取れないサザナミはただ見ていた。ずるずると音を立てて水から出てくるのは蛇か……いや、真っ白い毛髪に鋭い爪がついた手足、これは竜か。
「あたし、もう人身御供いらないのよ……先代から引き継いだけど、あたしは人を食べないの。寄こされたって困るわ」
「然様か。ならばこの場を立ち去りたいが……村人が煩かろう」
「そうよ、あいつら人の話聞きやしないんだもの」
 白い竜がため息混じりにサザナミへと向き直る。
 人身御供としての役割を失った人間と、先代からその座を引き継いだばかりの竜が、真正面から向き合っていた。
「どうすればいいのかしら?」
「私にも皆目見当が付かん」