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親に似ない

「親に似ない子は鬼の子だと昔は言われていたらしいよ」
 腹を痛めて産んだわが子に言われ、私は思わず噴出した。
 確かに夫にも私にも似ていない子供だが、だからどうしたと育てていた。
 この子は今年で十歳を迎える。ちょうど生意気な盛りだ。だけど、その生意気さはまだ初々しく、微笑ましいときすらある。
 これが十二、十四と年齢を重ねるにつれ、本当に憎たらしくなるのだなぁなどと感慨深くもあった。
「お母さん、あたし、どっちにも似てないでしょ」
 夫はサラリーマン、私は在宅プログラマー。
 娘はふて腐れたような表情で胡坐をかいてゲームをしている。オレンジ色のランドセルが足元に転がっていたので、私がそれを拾い上げた。
「宿題出た?」
「出た。後でやるよ。それより、親に似てるかって話なんですけど?」
 私は笑う。
 娘が不機嫌そうに私を見る。
 どうやら私か夫の浮気を疑っているらしい。本当に子供は信じられないところでませている。
 だから、本当のことを話そうかと思う。
「あのね」
「うん」
「親に似ない子が鬼の子なんじゃなくて、鬼の子は本来、親に似ない姿で生まれるものなの」
「そうなの?」
「そうよ。お母さんだって鬼だけど、おばあちゃんともおじいちゃんとも似てないでしょ」
「そういえば」
 娘は途端に機嫌をよくしたようだった。ランドセルをひったくって自分の部屋に駆け込んでいってしまう。笑顔だったので、良い意味で解決したのだと分かった。
 サラリーマンの夫が帰ってくる。彼は人間だ。
「ただいま」
 自分に似ていない実の子を、よく理解して愛してくれるいい親だと思う。
 半分鬼で半分人間の娘が、小さな八重歯が目立つ口をニコリと開けて元気良く言った。
「お帰り、お父さん! あたし、二人の娘よ!」
 夫と顔を見合わせて、笑った。