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五寸釘

 丑三つ時に、藁人形に釘を打ち込む。野暮ったい遊びをしている人間が、頭にろうそくならぬ懐中電灯を二本差しているので、思わず笑ってしまった。
 幸い私の声は聞こえていないようだ。私の声は微かであるから、聞こえるはずもないのだろう。人間の女は夢中で神社のご神木に釘を打ち込んでいた。
 罰当たりな。
 私はそう思う。思うからこそ呼ばれたのだ。神社の神主はご神木を守りたがっていた。
 するりと木々を潜り抜け、私は人間の背後に立つ。
 舌をちらりと出してススススス、と静かな息遣いをしてやれば、そこでようやく女は青ざめて振り返った。
 ごくりと私の喉が鳴る。
 腹の膨らみが元に戻るまで一晩はかかるだろう。こんなみっともない体型を神主に見られるわけにはいかない。

「ああ、また食べてしまったんですか? 追い払ってくれるだけでいいんですけどね」
 神主が私の頭を撫でながら困ったように笑っている。ご神木から引き抜かれた釘は真新しく、まだきらりと光る余裕さえあるようだ。
「あのですね、神様……人殺しはよくないかと」
 体に巻きつきにやりと笑う私に、神主は……私の夫は静かに言った。
 これでよいのだ。
 神社に生えている木々全てがご神木だと理解できないばか者は、飲まれて溶けるのが一番の教育になる。
 私がそう返せば、夫は更に困ったように笑った。
「決してあなたを止めない私も、同罪なんですよね」
 そのとおりだとも。