自分のことも大切に
「私が間違えていたら、遠慮なく指摘してください」
消しゴムが宣言した。間違えたところを正すために生まれたアイテムだからか、それはもう、毅然とした態度だった。
しかし、消しゴムには弱点があった。体や心が柔らかくてすぐに折れるから、自分が他者の間違いを指摘することは、できなかったのだ。
消しゴムは周りの態度に困ったような笑顔を浮かべて、一生懸命スルーしようとしていた。自分の心で生まれた「間違いを間違いだと言いたい気持ち」を押し殺してしまっていた。
僕は消しゴムを手に取る。
そして約束を果たす。
「私が間違えていたら、遠慮なく指摘してください」
そう言われていたから。
なぜ僕たちを対等に扱ってくれないの? と尋ねた。
注意してもらえない、ということは、君と対等な友達でいられていないということ。勇気を出して、僕たちの間違えているところを指摘してほしい。と。
消しゴムは、小さく震えていた。
「お友達だから、嫌な気持ちにさせたくなくて、黙っていました」
僕もそうだよ。消しゴムを嫌な気持ちにさせてしまうかもしれなくて、だから本当は、指摘なんてしたくなかった。
でも、消しゴム一人が我慢して、それを土台にして出来上がっている友達関係なんて、僕たちはつらいんだ。
消しゴム一人が我慢していることに気づけないのは、悲しいんだ。
言ってほしい。
消しゴムは、覚悟を決めたように、キリリとした表情になった。そして、僕たちを見て、ニコリと笑った。
「今まで一人で我慢して、ごめんなさい」
つらかったね。
「嫌な気持ちにならないように、言い方を工夫して指摘したいと思います」
それは良い考えだね。素敵だよ。僕たちも、話をきちんと聞くよ。
消しゴムは、少しずつ自分の意見を言えるようになっていった。間違っていると思ったことは、遠慮しつつ、でも、大切なところは譲らずに言えるようにも。
すっかり角が取れて丸くなった消しゴムは、僕たちの中でも一番の人気者だ。