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- ナノ -

お野菜ウォーズ 完

 スティックセニョールを襲っていたのは、紅の鎧に身を包んだ男であった。彼は衝撃波を放って地面を揺らしている。
「どうだ、私のメンマの威力は!」
 そう言って高笑いをする男に、地上へ出てきたコマツナが戦慄した。
「こ、これでメンマだと……!」
 メンマとは、地面を少し揺らすだけの魔法のはずだった。ここまで大規模に揺らすためには、本来なら、タケノコという上位互換の魔法を使う必要がある。
 それを、メンマと唱えただけで、この威力……。
 戦って勝てる相手なのか。
 気後れする面々をよそに、飛び出す影があった。
「兄さん!」
 ベニコマチである。
「ベニコマチ……お前もエリンギソテー様の配下になるがいい」
 兄さんと呼ばれた男は、ニヤリと笑って返した。彼がベニアズマのようだ。
 ベニコマチは必死に首を横に振り、目に涙を溜めて訴える。
「もとの兄さんに戻って! 兄さんは力尽くでの支配なんて望んでいなかった!」
「そのような世迷い言は、俺を倒してから言うんだな!」
 ベニアズマの炎魔法、オーレンジが、ベニコマチに向かって放たれた。
 カブはベニコマチを抱きしめ、地面に転がることでそれを避ける。
「おのれ、小僧!」
 ベニアズマの怒号。火の粉を散らすだけなはずのオーレンジで、家屋がまたたく間に燃え上がる。駆け寄ってきたコマツナが叫んだ。
「ウォーターメロン!」
 それは、空気中の水を集め、相手に向かって放つ魔法だった。
 水柱が、ベニアズマに向かって落ちる。
「オーレンジ!」
 ベニアズマは、水柱に向かって手をかざし、そう唱えた。
 水と炎。相性でいえば水のほうが有利なはず。しかしベニアズマは不敵に笑う。
 じゅう、と音をたて、水柱は弱くなっていった。
「な、なんだと!」
「ククク、たかが水柱など、私の炎で蒸発させてくれるわ!」
「そうはいきません、レモン!」
 電撃が飛ぶ。オーレンジを打ち消し、バチリと爆ぜる。
 コマツナの援護をするために、ナノハナが放った魔法だ。そしてナノハナは、ベニアズマに向かってこう叫んだ。
「グレープフルーツ!」
 電撃魔法、レモン。それを超える、上位の魔法だった。
 スティックセニョールに所属する各々が、ベニアズマに向かってウォーターメロンやレモンを唱える。ベニアズマはオーレンジよりも強い炎の魔法、パプリカを唱え、レジスタンスの猛攻をいなしていた。
 カブはベニコマチを背に、考える。
 なんとかしなければ。
 相手は高位の魔法使い。レジスタンスの皆を一人で押さえつけているような男である。なんとか、一瞬の隙を作り出し、スティックセニョールを助けなければ。
 ハッとする。もしかしたら、できるかもしれない。
「ビーンズ」
 カブは、気配を消す魔法を小声で唱えると、スティックセニョールと激しい戦いを繰り広げるベニアズマのもとへ走っていった。
「ウォーターメロン!」
「グレープフルーツ!」
 コマツナとナノハナが、ベニアズマに激しい魔法を浴びせかける。
「パプリカ!」
 ベニアズマはそれを一人で相手取り、両者の間には激しいスムージー(火花のようなもの)が飛んでいた。
「今だ! トメイトゥ!」
 カブが叫び、ベニアズマに向かって手のひらをかざす。暗闇を光で照らす魔法、トメイトゥ。弾けるような光が、ベニアズマの視界を奪った。それで充分だった。
 怯んだベニアズマを、ウォーターメロンとグレープフルーツが襲う。
「ぐわあああああ!」
 魔法の直撃を受け、カリフラワーシティーの地面に膝をつくベニアズマ。
 ダメージを負った今こそ、彼を救うときだ。
 カブは、拡声器をベニアズマに向けた。そして唱えた。
「ポテイトゥ!」
 睡眠、混乱を取り除く、気付けの魔法を。

「私は……私はなんということを」
 頭を抱えるベニアズマ。ベニコマチが駆け寄り、抱きしめる。
「洗脳されていたとはいえ、カリフラワーシティーを襲ってしまった……」
「全てはエリンギソテーの仕組んだことだ。ベニアズマよ、エリンギソテーの企みを阻止するため、あなたの力を貸してほしい」
 コマツナが、手を差し出す。ベニアズマは、力強く頷き、その手を取った。
 魔王エリンギソテーに立ち向かうべく、スティックセニョールは、中央に鎮座するホーレンソーシティーに向かうのだった。

 完。