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- ナノ -

お野菜ウォーズ 2

 石化された人々を救うための解放軍、スティックセニョールの地下支部にやってきたカブに、最初に教えられたのが初期の魔法だった。
 魔法の名は、ポテイトゥ。
 眠り、混乱した相手を目覚めさせる、気付けの魔法だった。
 もちろん石化した人に向かって唱えてもなんの意味もない。
「基本の魔法を覚えておいて損はない」
 コマツナの言葉に素直に頷くと、カブは基本的な魔法を次々に習っていった。
 暗闇を光で照らす魔法、トメイトゥ。
 気配を消す魔法、ビーンズ。
 魔法の練習は、頭に強い負担がかかった。前頭葉あたりが重くなり、こめかみが脈打つように小さく痛んでしかたない。
「今日はここまでにしよう」
 コマツナの言葉に、カブはその場に座り込んだのだった。
「お疲れさまです」
 鈴を転がしたような声が聞こえた。声のほうへと視線を向けると、そこにいたのは、防魔法ジャケットで身を包んだ、一人の少女であった。
 ジャケットの下は紺色のセーラー服である。聞けば、カブと同じように基本的な魔法の練習を繰り返している、戦闘員補佐らしい。
「まだ子供じゃないか。なぜ戦うほうを選んだんだい?」
 カブは彼女に問いかけた。
「兄がいるんです」
 彼女は、愛らしい声でそう答える。
「兄は私を逃がすために、エリンギソテーに立ち向かい、時間を稼ぎました。エリンギソテーは強い魔法を使える兄を気に入り、洗脳してしまったのです」
 なんということだろう。家族をエリンギソテーの下僕にされてしまった者たちもいるのだ。カブはあまりの残酷さに、言葉もなかった。
「私はベニコマチといいます。兄の名前は……ベニアズマ」
 ほかにも、孫を洗脳されてしまった者、姉を石にされてしまった者、カビが迫ってきて家族が離れ離れになってしまった者など、複数いたようだった。
 エリンギソテーを、止めなければ。
 カブの思いは、強くなっていった。

「はあっ! ポテイトゥ!」
 地下の空間で魔法の練習を繰り返すカブに、背の高い女、ナノハナが声をかけてきた。ベニコマチとともに練習を一旦中止し、ナノハナのほうを見る。
 ナノハナは、小型の拡声器を持って立っていた。
「カブさん、あなたの気付け術は、目を瞠るものがあります」
「それは、ありがとう。でも、まだ芽キャベツすら倒せそうにないよ」
「そうですね。攻撃する魔法は、もっと負担がかかりますから……」
 ナノハナが近づいてくる。拡声器をカブに手渡して、そして言う。
「これは、魔法の威力を少しだけ上げるアイテムです。このスイッチを押しながら唱えた魔法は、火の粉を散らす魔法、オーレンジなら、火力が上がって火傷をさせられるほどになるでしょう」
「それを……僕に?」
「はい。魔法の習得が上手なカブさんですから、いつか役に立つでしょう」
 カブが礼を言おうとしたその時だった。
 スティックセニョール地下支部が、大きく揺れたのは。
 地震……ではなかった。魔法で地面全体を揺らされているのだと、コマツナが険しい表情で告げた。
「どうやら……敵に我々の存在を感づかれたようだ」
 パラパラと土埃が降ってくる。このままでは地下支部が潰れてしまう。
 カリフラワーシティーや周辺の街が攻撃をされている。それに気づいたカブは思わず、魔法エレベーターに飛び乗り、地上を目指しているのだった。

 別の魔法エレベーターに、コマツナやナノハナ、ほか多数が乗り込み、地上を目指す。攻撃の魔法を持たないカブを、助けるために。