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お野菜ウォーズ

 ピーマン歴九九九年の、三月三日のことだった。不老長寿の大魔法使い、ピーマンが、誕生日を迎える前日である。その日、大都市であるカリフラワーシティーは、誕生祭を行う準備で大賑わいだった。
 カリフラワーシティーの町長、ブロッコ・リーが演説を始めようとマイクのスイッチを入れたとき、それは起こった。
「魔法都市、カリフラワーシティーに暮らすベジタブル族よ」
 まだ誰も声を発していないのに、マイクから声がしたのだ。
 すぐにレベルの高い魔法のせいだと分かった。
 マイクは言葉を発し続ける。
「この世界は、私、エリンギソテーが支配する」
 カリフラワーシティーの住人であるカブは、その時、信じられないものを見た。都市の周りを、丸い形の怪物が取り囲んでいたのである。
 隣接した都市であるアスパラガスシティーと、都市にバリアを貼る役目を持つ町であるハクサイタウンが陥落したことを意味していた。
「さあ、行くのだ、戦闘用モンスター、芽キャベツよ!」
 マイクからエリンギソテーの声がする。カリフラワーシティーを囲んでいた丸い怪物たちが、奇声を上げながらなだれこんできた。
 都市は大パニックに陥った。芽キャベツたちは住人に魔法をかけ、石に変えていく。カブは慌ててマンホールの蓋を開けて、そこに飛び込んだ。
 カリフラワーシティーがみるみるうちに石になっていく。
 カブは下水道を走った。走って、走って、カリフラワーシティーの下を移動していった。芽キャベツに襲われないよう細心の注意を払いながら。
 やがて、下水道に人の気配を感じ、カブは立ち止まった。芽キャベツたちかとも思ったが、靴音を響かせ、光の魔法であたりを照らしているところを見るに、生き残った住人だろうと予測ができた。
「誰だ、そこにいるのは」
 警戒心もあらわに声がかけられる。
 カブはおとなしく、光に照らされながら近づいていった。

「我々は、エリンギソテーの魔の手から逃れて生き延びた、アスパラガスシティーとハクサイタウンの者だ」
「無事で何よりです」
 アスパラガスシティー出身のコマツナと、ハクサイタウン出身のナノハナは言う。どちらも防魔法チョッキを着て、呪いよけのガスマスクをつけている。背の低い男がコマツナ、背の高い女がナノハナだった。
「エリンギソテーはベジタブル族を洗脳し、支配し、奴隷にするつもりなんだ」
 コマツナの言葉に、カブは問うた。
「いったい、なんのために? エリンギソテーとは何者なんだ?」
 それに答えたのはナノハナだ。
「エリンギソテーはベジタブル族ではありません。古代より続く黒魔法の一族……キンルイ族なのです」
 黒魔法。呪いや祟りなど、恐ろしい魔法を中心とした、相手を傷つけることに特化した魔法である。
 それを扱う一族だという話に、カブは戦慄を覚えた。
「逃げ惑う者は魔法で石にされましたが、エリンギソテーに逆らう者は皆、使い魔が放つ呪いによって腐敗し、倒れてしまいました。使い魔……その名も、カビ」
 カブは震えた。恐ろしさからくる震えではなかった。怒りである。キンルイ族とベジタブル族は、不可侵条約により距離をおいていたはずであった。しかし、エリンギソテーという魔王の出現によりその均衡は儚くも崩れ去り、黴びて腐敗するか、石化するかの二択を迫られている。
 こんな理不尽を許していいはずがない!
「カブよ。俺たちが組織するレジスタンスに入らないか? 組織の名は……スティックセニョールだ」
 スティックセニョール。
 治癒と平和を司る、回復魔法の祖と言われた、高名な魔法医師の名前であった。
 カブは頷いた。
 キンルイ族の暴虐を止めねばならないと決意した。