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悪くない人ポイント

 良い人ポイントというものがある。何か良いことをするとポイントがもらえるのだ。
 道に落ちているゴミを拾いゴミ箱に捨てる。道に迷った人を案内する。
 もらったポイントは、暮らすときに使える。タクシーが拾いやすくなったり、読みたい本を優先的に購入できたり。
 だからみんな良い人になりたがる。
 電車やバスなどでは席の譲り合い合戦が始まるし、町の中はそもそもゴミをポイ捨てする人がいないので、いつもきれいだ。
 たまに缶が落ちていると、ビーチフラッグのように人が飛び込んでくる。そして缶を手にした勝者が、悠々とゴミ箱に向かって歩いていくのだ。
 そんな中、特に親切にしない人がいた。
 迷惑行為をするわけではない。ただ、良い人ポイントを稼ごうとしない、不思議な人だった。
 道に迷っている人がいると、目的地へではなく交番や案内板へと案内して、そこで別れる。
 落ち込んだ人を見つけても、励まそうとも慰めようともしない。黙って隣にいるだけだ。
 町のみんなは不思議がっていた。
 僕は一生懸命にポイントを稼ごうとするほうだった。千ポイントくらい溜まっているので、いつ使おうか楽しみに思っていた。
 その人のポイントは百あたりらしく、ポイントを使うわけでもなく暮らしている。
「良い人になりたくないんですか?」
 僕は思いきって聞いてみた。
 その人は、牛乳を飲んでいた。
「どちらかというと、悪くない人になりたいなあ、と思ってます」
 濃厚牛乳を飲み干して、のほほんとしているその人。悪くない人、というのがいまいち分からない僕は、例えば? と続きを促した。
 その人は言う。
「私は人見知りなんです」
 ふむふむ。
「必要以上に親切にされると、恐縮してしまって」
 だから、自分以外にも人見知りな人がいるのではないかと思って、できるだけ世話を焼かないようにしているのだという。

 その発想はなかった。
 僕は目を丸くした。そんな気遣いのしかたがあるのか。少ししかポイントをもらえないが、確かに人のことを考えた行動だ。
 その人は、僕より良い人な気がする。
 僕は、溜まったポイントを全部使うことにした。その人の気遣いをきちんと評価してもらえるようにと。
 その人のさりげない優しさは、あっという間に周囲に伝わった。全員がその人を良い人だと認めた。
 その人は昔も今も変わらずマイペースに振る舞っているが。

 さりげなくて良いんだ、と誰かが呟いた。

 それからだ。争うように親切を施す人が、少しずつ減っていったのは。
 もともと、ぐいぐい親切にすることが苦手だった人たちもいたのだろう。その人たちが、手を引いていったのだ。
 みんな、自分のペースで良いことをしていくように、変わっていった。良い人ポイントは、あってないようなものになった。

 その人は今でも、道に迷っている人を交番に案内しするし、落ち込んでいる人を無理に慰めることもしない。
 良い人ポイントが空っぽになった僕の隣で、牛乳を飲んでいる。