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誰もいない

 パソコンの向こうには誰がいる?
 パソコンの画面の向こうには。
 パソコンの向こうにいるのは同じ人間なのだから傷つけあうのはやめましょう、と誰かが言っていた。相手は自分を楽しませるための機械じゃないのだから我侭は言わないように、と誰かも言っていた。適当な事を抜かすなあと私は思っていた。
 パソコンの向こうには誰がいる?
 パソコンの画面の向こうには。

「誰もいないよ」

 “誰もいない”が呟くのを私は聞いていた。マウスが勝手に動いて何かをクリックしている。キーボードが独りでに凹んでは文字を打つ。エンターキーがバシバシ叩かれてうるさい。
「あなたもある意味では人間じゃない」
 スポーツドリンクを喉に流し込み、扇風機の風に当たりながら、何となく言ってみた。ぎい、と椅子がきしむ音。椅子は此方を向いているけれど、そこに座っている“誰もいない”の姿は見えなかった。
「透明人間は人間じゃない、そういう種族なの、現代妖怪なの。君は人面犬を犬とカウントするのか?」
「する」
「あらら……」
 椅子が再びパソコンのモニターの方を向いた。
 だから私は彼に言った。
「どうでもいいけど、風呂上りに全裸でネットやるのやめて」

 透明人間が透明でいられるのは服を着ていない時だけだ。