食べてくれて、ありがとう!
あるところに、フライドチキンになりたいニワトリがいました。
ニワトリは、立派なフライドチキンになって、みんなに美味しく食べてもらうのが夢でした。ニワトリは考えました。
「僕が美味しく食べてもらうには、どうしたらいいだろう?」
ニワトリは、町で暮らしている猫にたずねました。
「僕はフライドチキンになりたいです。どうすればみんなに美味しく食べてもらえますか?」
猫はフライドチキンを食べたことがないので、うーん、と悩んで答えました。
「隣町の犬なら分かるかもしれません」
ニワトリは隣町まで旅をしました。
そして、隣町で暮らしている犬にたずねました。
「僕はフライドチキンになりたいです。どうすればみんなに美味しく食べてもらえますか?」
犬はフライドチキンを食べたことがないので、うーん、と悩んで答えました。
「隣町のおばあちゃんなら分かるかもしれません」
ニワトリは隣の隣町まで旅をしました。
そして、隣の隣町で暮らしているおばあちゃんにたずねました。
「僕はフライドチキンになりたいです。どうすればみんなに美味しく食べてもらえますか?」
おばあちゃんはニワトリのトサカを優しく撫でました。微笑んで言います。
「この町にいる、お肉屋のおじさんに紹介するわ。きっと力になってくれますよ」
「ありがとう、おばあちゃん」
おばあちゃんはニワトリを連れて、お肉屋さんに行きました。お肉屋さんは、珍しいお客さんに目をぱちくりさせています。
ニワトリはたずねました。
「こんにちは。僕はフライドチキンになりたいです。どうすればみんなに美味しく食べてもらえますか?」
お肉屋のおじさんは、ニワトリの言葉に感動しました。大きくうなずいて、ニワトリのトサカを撫でてくれます。
「その心意気だけで充分だよ。あとは美味しく料理してくれる人に任せるといい。友達に料理人がいるから、紹介しよう」
「ありがとう、おじさん」
お肉屋のおじさんは、ニワトリを連れて料理人のおじさんのもとへ行きました。料理人のおじさんは、珍しいお客さんに目をぱちくりさせています。
お肉屋のおじさんは、料理人のおじさんに言いました。
「実は、このニワトリくんが、フライドチキンになりたいそうなんだ」
「そうです。みんなに美味しく食べてもらいたいんです。料理人のおじさん、僕を美味しくしてください」
料理人のおじさんは、ニワトリの言葉に深くうなずきました。そうして、料理人として覚悟を決めました。
「では、私がとびきり美味しいフライドチキンにしましょう」
「本当ですか? やったあ! ありがとう、料理人のおじさん!」
料理人のおじさんはがんばりました。なんたって、ニワトリの夢と希望を預かっているわけですから。
ハーブでニワトリの香りを消しきってしまわないように気をつけました。油でニワトリを焦がさないように気をつけました。
そうして出来上がったのが、パリッ、ジュワッと美味しいフライドチキンでした。
フライドチキンのお披露目会には、猫と、犬と、おばあちゃんと、お肉屋のおじさんが呼ばれました。みんなに美味しく食べてもらいたい、というニワトリの夢を叶えるために、みんなで食べました。
その美味しいこと美味しいこと。
「なんて美味しいんでしょう」
「これはとても美味しいぞ」
みんなは大喜びです。
その日の夜、みんなは夢を見ました。
美味しく食べてもらいたくて、町から町へ旅をした、ニワトリの夢でした。
ニワトリは、とてもがんばったんだな、とみんなが思いました。
残さず食べてあげられてよかったな、とみんなが思いました。
夢の中で、ニワトリが言います。
「食べてくれて、ありがとう!」
おわり。