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夏と氷と冷蔵庫

 お茶を飲もうと冷蔵庫を開けたら、びゅう、と雪が吹きつけてきた。見れば冷蔵庫の中はほとんど霜がおりていて、凍りかけている。
「雪女さん、冷蔵庫が壊れてしまったよ」
「私の実家から持ってきた冷蔵庫だから、それであってるよ。夏場は張り切るようにできてるの」
 それは困った。お茶が飲めない。
「どうにかやる気をなくしてくれないかな」
 冷蔵庫に相談してみたが、冷蔵庫は、そういう訳にはいかない、と生真面目で、冷やすことに心血を注いでいるようだった。
 お茶が凍りついてしまったら、いちいち溶けるのを待たなければならなくて、喉が渇いてしまう。
「鮮度を保ってくれるだけでいいのに」
「冬は半分眠っていて、温度が上がるのよ」
 雪女さんが言う。そうか、半分寝ていれば、普通の冷蔵庫として使えるのか。
 冷蔵庫に向かって、紐を結んだ五円玉を揺らしてみる。あなたはだんだん眠くなる。
 冷蔵庫は眠るまいと頑張って、冷気を吐き出し始めた。寒い。しかも中身が凍ってしまう。大変だ。
 それなら、これはどうだ。
 冷蔵庫の取扱説明書を取り出す。注意事項、故障かな? と思ったら、冷蔵庫の使い方などを、朗々と読み始めた。
 だんだんと冷気が弱くなってくる。
 説明書で眠くなるのは、機械も人も同じらしい。なら、これは? 古典の教科書を出して読み始めた。
 冷蔵庫は起きてしまった。
 僕は眠くなるのだけれど、冷蔵庫にとっては興味深い内容だったようで、ふんふん、と涼しい風を吹かせながら、続きを促してきた。
 いつの間にか、冷蔵庫内の温度は適温になっていた。
 そうか、気を紛らわせてあげればよかったのか。なぜ気が付かなかったんだろう。
 雪女さんはお茶を飲んで笑っている。
「二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで……」
 今では、冷蔵庫の前で朗読会を開くのが、我が家の恒例となっている。
 朗読に疲れて喉が渇いても大丈夫。
 お茶は凍りつかずに、きちんと冷えている。

【終】