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S極N極

 自分のことを「拙者」と呼ぶ女の人がいた。変だからやめなさいと親に言われても、やめない。口調はやや少年っぽかった。
「拙者はアップルパイ食いたい」
 こんな感じでしゃべる。
 あたしはため息まじりで彼女に言う。
「食いたいはやめな」
「食したい」
「食べたいでいいから」
 彼女は、首を傾げる。

「拙者はさあ、さくらんぼが乗ったパフェも好きなんだ」
 ある日、彼女はそう言った。
「けど、ニンニクましまし背脂ラーメンも大好き。あれはうまい。友達と会えなくなっても仕方ない」
「あたしはネギ塩ラーメンが好きだけど」
「さっぱり系じゃん。拙者それ食ったことねー」
「食べたことない、ね」
 身長一五七センチの彼女の髪型は、ベリーショートのウルフカット。対するあたしは一八一センチで、ショートボブ。
「ていうか卓也、我慢しないで女の口調にすればいいじゃん」
「一人称があたしなだけで充分。それ以上はお腹いっぱいだよ」
「誰のお腹?」
「周りの人のお腹」
「拙者はそうでもない」
 彼女……真咲は肩をすくめて、あたしを見た。まるで、あたしが女になりたがっているかのようじゃないか。それは違う。女でも男でもない、宙ぶらりんの状態で生きていきたいのだ。
 女に寄ってしまったら、宙ぶらりんじゃなくなる。それは嫌。
「にしても、真咲。拙者じゃない一人称もあったでしょうに」
「どれもしっくり来なくて」
 わかる。あたしもそうだった。真咲の中身は無性別を貫きたいあたしと違い、両性が備わっている。あたしには想像できない。
「親に怒られるでしょ、その格好と口調」
「拙者は親じゃないから、親の思ったとおりに生きてやることはできない。拙者の責任で拙者を生きるのみ」
 そうだね、なんて同意した。あたしは親と絶縁しているくせに、理解者ぶった。
「真咲は好きな人とかいるの?」
「好きだね、恋バナ」
「どうよ」
「拙者はいない。そういう欲がわかない」
「ああ、わかる気がする」
 想像できないけれど想像して、隣にいる対極な女を見れば、彼女はくしゃみを一つした。