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異形を屠る村

 村に異形が出た。
 青白い肌、目元は暗く、ほそりとした枝のような四肢。血のように赤い唾液を吐き、ぜえぜえと誰かを呼ぶ。
 不気味じゃ、不気味じゃと村人は言うた。
 池に沈めてしまおう。と誰かが言うのに、反対するものはなかった。異形狩りじゃ。これで村は平和になる。
 おとなしい、異形じゃった。

 村に異形が出た。
 村の者たちより頭二つ飛び出た長身、爪は黒く、銅色の皮膚、髭面。大酒を飲み干し、しゃがれた声で誰かを呼ぶ。
 恐ろしや、恐ろしやと村人は言うた。
 山に埋めてしまおう。と誰かが言うのに、反対するものはなかった。異形狩りじゃ。これで村は平和になる。
 酒くさい、異形じゃった。

 村人は皆、小柄じゃった。畑仕事で浅黒い肌、シワや傷だらけの体。
 何より鬼を恐れた。
 少しでも自分たちと違う者を見つけると、異形じゃ鬼じゃと悲鳴をあげる小心者たちじゃった。
 小柄で、肌が浅黒く、細かな傷が体中にある子供が村を走る。
「異形じゃぞ」
 恐れおののいた村人が家々から出てきた。
 腰の曲がった爺婆ばかりの村じゃった。ふらふらと、よろよろと、旅の者を見つけ、たかり、異形じゃ異形じゃと目をギラつかせて喚いた。
 神様へ捧げようと誰かが言うのに、反対するものはなかった。異形狩りじゃ。これで村は平和になる。

「それはどうかな」

 旅人……赤黒い肌の大男は低く低く笑う。
 大男はたかる爺婆をひょいと投げ、池に沈め続ける。逃げ惑うこともかなわず、村人は山に埋められる。叫ぶ声もなく、異形狩りのその人たちは神へ捧げられる。

「異形じゃぞ」

 浅黒く傷だらけの肌を持つ、小柄な子供が笑っていた。
「少しでも異なる者を見て異形じゃと声をあげる心の有り様こそがな」

 その場に残ったは、二匹の鬼だけであったそうな。
 取るに足らぬ二匹の鬼によって刈り取られてしまった命。呆気ない結末と相成った。
 しかしそれも仕方ない事。異形を恐れ、鬼を恐れ、散々その名を呼び続けた者たちの前に、張本人が現れいでただけ。
 村は廃村となり、半世紀の間放ったらかしとなった。

「それが、この火振村(ほふりむら)でございます」
 土地の管理者が語る。
 青白い肌の、目元は暗い、病弱な管理者であった。
「まあ、ただの作り話だろうがねえ」
 管理者の親族が言う。
 銅色の肌の、とても背の高い、酒くさい男であった。

「何もない場所ですが、どうしても寝泊まりしたいのですか」
「なら、好きにするといいさ、旅行者さんよ」
 二人の男に見送られ、筋骨隆々、長身の男は笑って手を振った。
 浅黒い肌の子供を連れていた。