×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

サナギ

 喋るサナギが家の一角を占拠していてとても邪魔だ。カーテンレールのちょうど始点にあたる隅にいるものだから、尚のこと邪魔なのだ。日光が遮れない。
 しかしどいてくれともいえずにミハルはため息をついた。自力で動けるのならそれはもうサナギではないだろう。とても大きなサナギだった。
「サナギの中はまるで溶解でもしているかのようにドロドロなんだぜ」
 サナギは言った。
 とても気色の悪い話だった。
 ミハルは顔をしかめてサナギを無視する。サナギは再び、あるのだかないのだか分からない口を開いた。
「俺が羽化すると思うか?」
「思わない。あんたがカーテンの隅に居ついてからもう二年もたってる」
 ミハルが答えると、サナギは笑う。二年も自分を追い出すことなく、時々乾いた布でホコリを拭ってくれるミハルに笑いかけていた。
 サナギはゆっくりと言う。
「俺は蝶になるかな、蛾になるかな」
 ミハルは言う。
「蛾でしょうね」
「ミハル、俺はお前を愛しているんだぜ」
「そうね。私も、気色悪いことを言わない限りは貴方が好きよ」
「お前は俺を引き寄せる」
「誘蛾灯みたいに言わないで」
「俺は蛾になるんだろう?」
 ミハルは黙ってコーヒーをすすった。サナギは未だにサナギのままである。蝶になろうと蛾になろうとミハルには関係のない事だった。
 蝶であろうと蛾であろうと、ミハルにはどちらでも良い事だった。