サイロを改造して作った塔の中に閉じ込められて育った少女は、友達が一人もいませんでした。
少女の友達と言えるのは棚に詰め込まれた沢山の本だけ。
少女は寂しくありませんでした。
少女は悲しくありませんでした。
友達がいない事が当たり前で、一人でいる事が当たり前で、誰にも求められない事が当たり前だからです。一人に慣れきってしまっていたのです。
そんな少女は分厚い本を開きました。恐ろしい悪魔が描かれた本でした。この悪魔は人間にこのように作用する。この悪魔は人間を惑わせる。絵の隣に書かれた解説を読みふけり、少女は口を開きます。
「さっきから塔の隅で私を見つめてくるあなたは、どんな作用をもたらすのかしら?」
下へと続く階段の隅には、ヤギの頭と大鴉の翼を持った、真っ黒なコート姿の悪魔がいるのでした。
「あなたに孤独を与えに来た」
悪魔は言います。
それに少女は返しました。
「私は既に孤独よ」
悪魔は言い返します。
「一人きりは孤独とは呼ばない」
「ならば何が孤独なの?」
「一人ではないのに一人きりである事を孤独というのよ」
悪魔は塔に住むと言います。少女の都合などお構いなしです。悪魔は足を組んで少女に向かって告げました。
「一人ではない事を覚えさせて、それから一人にしてしまえば、簡単に孤独は完成するからね」
「私を置いていくのね。私をこの塔に連れて来た大人たちと同じように……」
そんな、しんみりした空気から始まる、少女と悪魔(女)の共同生活。そのうち魂の契約をして悪魔と離れたくても離れられない関係になってしまえばいい。
そんな百合。