昼休みに私のクラスに来た蔵くんから、今日は部活がないから早めに帰る、と言われたことを思い出した。残って練習しなくていいの?と聞いたら、さすがにテスト前はな、と返ってきて、私はそこでテストが3日後まで迫っていることを知った。のは、どうでもよくて!
 珍しく早くホームルームが終わったので、蔵くんの教室へ急ぐ。彼の席が廊下側にあるのをいいことに窓をつついてみたら、ルーズリーフに”今HR中やから待ってて”と書いて見せてきた。
 その場にしゃがみ、何分経っただろう。イスを引く音に、HRが終わったのを確認した。



「待たせてすまんかったな」
「大丈夫!」
「お久しぶりです、柚さん!」
「わ、謙也くん久しぶりー!相変わらずいい子だね」
「こいつ、柚の前だけやで。こんなの」
「よし、いい子にはこれをあげよう」



 ポケットから飴玉をひとつ取り出し、謙也くんの手に置く。おおきにって明るく笑う謙也くんはいかにも後輩って感じがして、可愛いなぁと言いながら思いっきり頭をなでてやった。


「俺にはないん?飴ちゃん」
「残念、ラス1でした」
「おおっ、俺ラッキー!」
「…ほらもう、はよ帰るで柚」
「はーい」



 謙也くんにバイバイと手を振って、蔵くんの後を追いかける。外に出た途端、ふきつける寒風に身震いがした。



「寒いねぇ」
「柚はそんな短いスカートはいてるからやろ」
「蔵くんだって寒いでしょ?」
「ははっ、せやね」



 ふぅ、と吐く息が白い。灰色に覆われた空からちらほらと降ってくる雪に、傘をさそうか考えていたときだった。



「謙也はな、ほんまに普段はただのアホやで」
「どうしたの急に」
「…柚の前だけいい子なんが、なんかな」
「むかつく?」


 ふふっと笑って横を向けば、マフラーに顔を埋めた蔵くんがこくんと頷いた。



「蔵くんはね、かっこいいから大丈夫だよ」
「…え?」
「謙也くんは可愛い、ね。蔵くんはかっこいい!」
「…ほんまに?」
「うん。結構自慢の幼なじみですよ」


 そんな自分のセリフに少し恥ずかしくなりながら下を向いた。と同時に、消えるとなりの足音。蔵くん、そう呼びかけ後ろを向く。蔵くんは歩き出そうとしない。



「柚」



 名前を呼ばれ、いつもみたく返事をしようとしたときだった。蔵くんの匂いが鼻孔をくすぐる。
 冬の寒空に音が吸収されているのか、物音ひとつしない通学路で、私は蔵くんに抱きしめられていた。

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