この教室の私の席は特等席だ。黒板が見やすいとか先生の死角とかじゃなくて、テニスコートがはっきり見えるから。


「…柚?」
「おー」


 放課後の私以外誰もいない教室に、突然の来訪者。いや、来訪者っていうかクラスメイトっていうか友達っていうか。部活の合間に忘れ物を取りに来たみたいだった。


「何しとん?あんた帰宅部やなかったっけ?」
「んー、人を待ってるんだよね」


 友達も同じように私の席から窓の外を眺める。一息ついて、「なるほど」何かに納得したようだった。



「そういえば幼なじみやったっけ?白石くん」
「うん。中学入ったらテニス始めるとか言ってたからさ、どんなもんかなーって思ってたらまさかここまで上手くなるなんてね」
「二年にも負けへんって噂やしなー」
「でも最初は本当ヘタッピだったからね。私が言えることじゃないけど、空振りとかしょっちゅうだったし」
「ずっと見てるん?」
「かれこれ半年くらい」



 あんたも大変やねぇ、そう言う友達に「帰宅部って本当暇人だから」そう笑って返した。自分の机の中からプリント数枚を取り出した彼女は、さっきと同じように私の横に並ぶ。



「せやったらこんなとこで見とらんで、コート行けばええのに」
「私が行くと、蔵くん集中できないから」
「へぇ」
「でも、ここ結構いいんだよ?テニスコート見渡せるし、室内だからあったかいし」
「ははっ、確かに」


 ふと、またテニスコートを見てみれば、部長が集合をかけている。この調子だと3分後くらいに解散になるかな。なんて思いながら、机の横にかけてあるスクバを手にとった。


「じゃ、終わったみたいだから私行くわ」



 友達に別れを告げて、急ぐのは校門。着替え終わった蔵くんが走って来て、「待った?」「ぜーんぜん」そんな会話をして一緒に帰る。

 それが習慣になりつつあった、そんな中2の冬――。
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