「……ウソ、…」
「どないしたん?」
「弁当忘れたあああ!!」


 学生の唯一の楽しみといえば、大体の人はお昼の時間と答えるだろう。もちろん私とて例外でなくて、お昼の時間のために学校に来ていると言っても過言ではない。
 それがなんだ、弁当を忘れたともなれば絶望感は最高地点に達する。何のために私は午前の授業を頑張ったのか!お昼のためじゃないのか!



「それは言い過ぎとちゃう?」
「言い過ぎじゃない!もうやだやだやだやだ、本当やだ私帰る!」
「え、まじで!?」
「購買でパン買ってから帰る!」
「せやったら帰んなや!」


 幸いにも財布の中には100円玉が何個かあるので、仕方なしに購買に行くことにした。因みに私はパンより米派なのでおにぎりがあればいいな、とか思ったり。おにぎりはたまにしかないんだよね…。



「せや、例の少女マンガ続き持ってきたでー!」
「なになに?結局コイツら別れるやん」
「ちゃうちゃう、最後には元サヤになんねん!」
「まじか!」
「なぁ、この男の子よく見れば白石くんに似てへん?」


 その友達のセリフにどきっとなる。周りは「確かに!」とか何とか同意してるし、こっちに話題が振られなければいいな、と思っていた。しかしやっぱりそこは私の友達、あの話題に戻ってしまう。



「やっぱり白石くんやったら好きんなってもおかしないと思うで?柚」
「イケメンやし!すごいいい人やてウチの後輩も言うてたわ」
「ははは、ないってば」
「そんなん言うてー!ええ?」
「いやいやまじで」
「せやけど普通にかっこええやん」
「幼なじみは恋愛対象に見れないって絶対!」
「えぇー!?白石くんやで?」
「ていうかどっちかって言うと嫌いだしね!」



 そんな時だった。クラスの男子が大声で私の名を呼ぶ。「水瀬ー!呼んどるでー!」いやいや誰が?主語をつけろ。と思ったが、それはすぐに誰だか分かった。教室の後ろのドアに蔵くんが立っている。

 もしかして、全部聞かれてた…?バクバク、違う意味で心臓が悲鳴をあげている。



「これ、お弁当。おばさんからな」
「あの、ちょっと待って…」
「じゃあ、」


 蔵くんは上手く笑顔を作っているみたいだけど、そんなのすぐに分かる。本当はすごく傷付いていることくらい。
 お弁当を渡して直ぐ様走って行ってしまった蔵くん。だけど、私はどうすればいいか分からなくて。


(あの時と同じ…)


 しばらく呆然としてから、追いかけるように走り出した。誤解を解かなくちゃ、そう思ってひたすらに走ったが、やはり元男テニ部長には追い付けるはずもなく。だからと言ってこのまま教室に帰る気にもなれなかったので、友人に授業を休むことをメールして校舎を出た。





 見上げれば雲一つない空が広がっている。憎いくらいの、綺麗な空色。

 蔵くんを傷付けてしまった。お弁当を届けに来てくれたのに、お礼も言わずに嫌いと言って。最悪だな、私。今日に限ったことではないけれど。


「ハァ…」


 しかもあの時と全く同じ。どう思ったんだろう、蔵くんは。

 しばらく歩いていれば、見覚えのある小さな公園が見えてきた。ブランコと砂場とタイヤの何かしかない、小さな公園。

 覚えてる。ここは、


「別れた場所……」



 ブランコに座ると当時のことが鮮明に蘇ってきて、私は後悔の念に溺れるのだった。
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