ピンポーン、久しぶりに白石家に来たので、滅多に鳴らさないチャイムなんか鳴らしてみた。手には美沙希ちゃんに返すDVDと友香里ちゃんに頼まれてたマンガ、それからお裾分けの母お手製のスコーン。
 ボーッと突っ立っていると、パタパタと足音が聞こえてきて姿を現したのは猫を抱えた美沙希ちゃんだった。蔵くんじゃなくて、ちょっぴり安心。


「まぁ、柚ちゃん!なんや久しぶりやなぁ」
「ども!」
「もう高1なんやて?」
「うん。あ、色々持ってきたんだ!上がっていい?」
「勿論!」



 リビングに来ていつも思うのは、白石家は整理整頓がしっかりされているなということ。みんな綺麗好きだからな、家と違って。
 美沙希ちゃんは白石家長女で、現在国立大学一年生。これでまた美形ときたら男は黙っちゃいないよね。なのに彼氏がいないのは興味がないかららしい。何それめちゃくちゃかっこいい。


 休日なのに白石家はすごく静まり返っていた。美沙希ちゃん曰く、おじさんは仕事、おばさんは買い物、蔵くんは友人宅で受験勉強で友香里ちゃんはお出かけらしい。蔵くんがいなくてちょっぴり安心、とかまた思ってみたり。



「そんで、これはお母さんからスコーンね」
「わあ、これめっちゃ美味いねん!おおきに!おばさんにも伝えといてや」
「うん」


 渡すものは渡したし、ぐだーとフローリングに仰向けで寝転がる。すると猫ちゃんがにゃーにゃー言いながらすり寄ってきたので(ちくしょう、可愛いな!)、わしゃわしゃと戯れていた。そんな時だった、美沙希ちゃんが何気ない口ぶりで聞いてきた。昨日のテレビ見た?そんな感じで。



「そういえば、最近蔵と話してないん?」
「…あ、うん」
「蔵言っとったで。寂しいって」
「…ま、まぁほら、同じ敷地でも校舎離れてるし、さ!」
「そか…」
「…うん、」


 美沙希ちゃんに嘘をつくのは心が痛むけど、この気持ちは忘れるって決めたから。いつか私がこの気持ちを忘れて、何もなかったことにして普通の幼なじみに戻って。そんな日が来るといいな、なんて。自分勝手なのは分かってるけれど。



「じゃあ私そろそろ帰るね」
「おん。送ってこか?」
「ははっ、家目の前なのに?」
「せやね」


 ここは蔵くんの部屋だ、そんなことを思いながら廊下を歩く。靴を履いて、ドアを開けたときだった。



「……」
「…あ、柚」



 なんでこんなにタイミングがいいのか、帰宅した蔵くんとまさかの鉢合わせ。目を合わせたのは何年ぶりだっけ。なんて思いながらも心臓は異常なほどにバクバクうるさい。どうしよう…。


「久しぶりやな、家来てたん?」
「…まぁ」
「せっかくやし夕飯くらい食ってけばええのに」
「…いや、帰るから」



 目をあわせないように下を向いて急いで家に帰る。玄関のドアに寄りかかりながら、私はバクバクする心臓を抑えるのに必死だった。

 去り際の蔵くんの悲しそうな顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
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