お昼の後の現代文の授業、俺は先生のやや右下がりな文章をノートに写していた。三年生の受験も終わり、学校全体がゆるりとなる時期。教室を見渡せば机に突っ伏して寝ている人もちらほらといる。

 さらり、と風がふいた。その反動でカーテンがふわりと浮く。



「え……」



 一瞬、自分の見たものを疑った。いや、今も信じられない。
 一番前の窓から風に誘われるようにふわりと少女が入ってきて、一度教室を見渡した後黒板の上の縁に座った。頭は天井ぎりぎり。膝に肘をのせて頬杖をつき、わずかな微笑を含んで俺を見ている。

 まわりはたぶん気づいてないのだろう。だって、教室という空間に彼女が入ってきても、何にも変わったことはなくて。相変わらずゆるりとした空気である。


 その少女は、授業中ずっと俺を見ていた。見間違いじゃない。たしかに俺を見ていた。
 その後の授業も掃除もホームルームも、必ずその謎の少女は視界の隅にいて。なんで皆は気づかないんだろう、そんなことを思ったりもした。



「―――じゃあ、今日の部活はこれで終わり」
「「ありがとうございましたー!」」



 それが部活中も、となればさすがに気味が悪くなる。木の上からコートを見渡していたかと思えば、着替えている今も部室の隅にいて。珍しく眉間にしわが寄った気がした。



「じゃあ俺、今日は先帰るね」
「おー、お疲れさーん」
「お疲れー」



 着替え終わって駆け足で部室を後にする。昇降口のところまできて後ろを振り返ってみれば、まだあの子がついてきていて。じーっと俺を見ている。

 ブチッ。
 あれ、なんだブチッって。さすがに俺も堪忍袋のなんとやらがきれたようだった。



「あっ、のさ!君、何か用事あるなら言ってくれないかな?」
「…君がゆきむらせいいち君?」
「そうだけど?」
「あーよかった!やっぱり見間違いじゃなかった!だいたいこの人相書き、分かりにくいんだよねっ」
「…は?」



 ぷんすか怒りながら人相書きとやらを差し出してきたので見てみれば、汚い字で「ゆきむらせいいち」と書かれ、その下には丸と点だけの人の顔が描かれている。
 ちょっと待て、これが俺?認めないぞ。



「あ、用事だったね!そうそう、君あと1ヶ月で死ぬから!」



 俺の前に舞い降りてきた少女は、天使の姿をした死神さんでした。
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