なんでもない晴れた春の日。三月の下旬となれば桜はもう満開になっていて、真田からの誘いで久しぶりにテニス部が集まることになった。中学の側の桜並木でお花見をするらしい。


 高校卒業後、大学に入ってテニスも続けて、なんでもない日々を過ごしてきた俺。きっとみんなもさして変わらないのだろう。

 数年ぶりに会った彼らは、それなりに成長したようだった。真田や柳、柳生はほとんどそのままだったけど、丸井の髪が茶色になってたり赤也の身長がのびてたり。真田にスーツが似合ってたのは少しだけおかしかったな。

 久しぶりすぎてお互い探り探りになるのかな、なんて思っていたけれどそんなことは全然なくて。相変わらずの騒がしさの中に真田の怒号が混じっていたりとか、丸井がお菓子ばかり食べていたりとか、全然変わらないことばかりだった。



 やっぱり、生きててよかったと思う。こうして美味しいものを食べて仲間と騒いで、こんな日常が何よりの宝だから。

 今なら思える、これがきっと“彼女”が一番望んだものなんじゃないかな。



「俺、ちょっと歩いてくるね」



 神奈川に来たら、一度寄りたいと思っていた。けれど卒論やら何やらに追われ、気づけばもうあれから数年が過ぎている。


 賑わいを見せる桜並木を外れた、もう一つの桜並木。人っ子一人いないそこに、俺は足を進めた。



「変わらないね…」



 変わってないんだ、何もかも。四季は巡り、今日の桜はもうあの日の桜ではないけれど、何故だか懐かしいようなあたたかい気持ちになった。

 ゆっくりと歩みを進める。その時、ぴたりと風が止んだ。風がないのに、ひとつの花びらが大地に落ちる。
 それは何かの“気”がはたらいて落ちたような気がした。



「忘れない。きっと、ずっと忘れないよ」



 君と過ごした日々は何物にも代えがたい宝もので、すごく幸せな毎日だった。
 胸に手をあてて、君が消えた場所に立つ。

 なんでだろう、こんなにも心があたたかいのに、俺は涙が出てきたんだ。
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