気づけば教室の窓からの景色は赤や黄に染まり、あっという間に季節は秋を迎えた。席替えから数ヶ月、例のお弁当を柳くんはぺろりとたいらげてくれたみたいで、しかも洗って返してくれて。「美味かった」なんて笑顔、私は絶対忘れないと思う。

 それから、すごく些細なことなんだけど、授業中目があったら微笑みかけてくれたり、難しい問題を当てられて困っていたら柳くんがコソッと教えてくれたり。あと、あの柳くんが授業中にほんの少しだけだけど寝たのには驚いた。もしかしたら見たのは私だけなんじゃないかな、なんて、ちょっぴり優越感にひたってみたり。

 もっと進展はないの?と聞かれたりしたけど、そんなことより、今柳くんといるこの時間がどうしようもなく幸せで。毎日毎日、小さなことに嬉しくなったり笑顔になったり、本当に幸せだった。ううん、今も幸せ。

 このことを麻衣ちゃんたちに言えば、よかったね、なんて笑ってくれて。大好きな人と見守ってくれてる友人、柳くんの隣で毎日を過ごせるだけでよかった。ただ、それだけでよかったのに。



「今日から三学期ということで、席替えをしまーす!」


 希望が過半数に至ったので、そう教卓に立ってみんなに告げるのはルーム長。あちこちで「やった!」とか「後ろの席、後ろの席にー!」とか聞こえるが、私の心の中はパニックだった。え、席替え?やだ、だって、そんな。


(柳くんと離れちゃう…)


 長い片思いで、ようやく隣の席になって距離が縮まったのだ。席が離れたらきっと前みたいにただのクラスメイト、私の中で築いてきた彼との関係がなくなってしまう。本当に、本当に、隣の席にいれるだけでよかったのに。それ以上は望まないのに。

(なんで…、)


 かくいう間にも書記が黒板に枠と数字を書いていて、「適当に並んでくじ引いてー」そんなルーム長の声が遠くで聞こえた。



「柚、大丈夫?」
「う、うん…」
「なんとかなるって!大丈夫だよ、いざとなったら告白しちゃえ!」
「えええええ」
「今までありがとう、好きでした。みたいな」
「あははっ、ベタベタじゃんそれ」
「…ふふっ、」
「?」
「どした?」
「うん、そうだよね。ていうか離れるなんて決まってないし!私くじ運強いから次も隣引き当てたるし!」
「よっしゃ、いけ柚ー!」
「おりゃー!」



 さっちゃんと麻衣ちゃんには本当にお世話になってばっかだな。もう私、柳くんとの思い出だけでご飯五合はいけるから大丈夫!そうポジティブに考えてくじを引いた。12番、一番後ろの席だ。ぼんやりとそんなことを考えていたら既に机の移動は始まっていて。柳くんにお礼言いそびれちゃった…。仕方なくわたしも机を移動させることにした。




「はあぁ〜」
「どうした、そんなにため息をついて」


 遂に離れてしまった。やっぱりショック故にため息は出てしまう。どうしたもこうしたも、好きな人と離れれば……って。


「え?」


 だって、間違えるはずがない。たまにだけど聞いた優しくて大好きな声、聞き間違えるはずがないもん。


「や、柳くん…!」


 バッと横を見れば、相変わらずかっこいい柳くんと目があう。神様、これこそ奇跡なのではないでしょうか。二回も連続で隣の席になるなんて…!

 にこり、私も微笑みかえす。


「な、何でもないよ!」
「そうか」
「うんっ!」
「それはいいんだが水瀬、」
「?」


「国語辞典を貸してくれないか」


 ちょびっとだけ涙が出そうになりながら、私はかばんの中から国語辞典を取り出した。覚えててくれた、役に立った、名前を呼ばれた!嬉しい以外のなにものでもない。




 私は柳くんに恋をして変わった。毎日が楽しくて、世界が眩しいくらいたくさんの色でうめつくされた。
 これからは、きっともっと楽しいことが待ってるね。

 あなたとの輝く毎日を、また、ここから。



fin.
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