水瀬がアワアワと慌てて部室を去ると、案の定俺は質問攻めにあった。主に丸井仁王赤也から。
「今の誰だよ!彼女?ねぇ彼女?」
「ウブな子じゃの〜。絶対お前のこと好きぜよ」
「っはー!先輩もやりますね!どこまでいったんすか?」
彼女でもなければ話したことだって数回、そう伝えれば口々に「えぇー」と言って何やら話し出した。俺はといえばもらったそれの風呂敷を解き、中を確認している。形状からやはりというか何と言うか、まさか重箱で来るとは思わなかった。
「ちょ、重箱って…!」
「あははっ、あの人面白いっすね!」
「重箱〜っ」
「ひぃー!はははっ」
何が面白いのか、3人はツボに入ったようでギャハギャハと笑いだす。気づけば他の部員も、俺の手元をじーっと見ていた。
「なかなかの出来だな」
「これ、おにぎりこんなに食えねぇだろ」
ふと、精市を見てみればにっこり笑った彼と目があって。嫌な予感がしつつも、話に応える。
「わざとだろ?」
「何がだ」
「生徒会室に用事があったのは本当かもしれないけどね。彼女が部室の前でウロウロしてたの見てたでしょ」
「…さぁな」
「悪趣味だなぁ」
クスクス笑う精市につられて、俺も少しだけ笑ってしまった。まったく、何年経っても精市には敵わないな。
「そういうことだったんだね」
最近、すごく楽しそうだったから。そう言って再び微笑む精市。驚いた、だってそんな、自分が表情に出してたなんて思ってもいなかったから。まぁ、分かるのは精市と弦一郎くらいだとは思うが。
気づけばお昼の残り時間も少なくなっていて。すごく頑張ってくれたんだろうな、そんなことを感じながら俺は重箱の蓋を開けた。
「いただきます」
「俺卵焼きいただきー!」
「……」
「ちょ、え、開眼?え?」
「い、いいじゃないっすか!それ食べきれないですよたぶん!」
「そうじゃそうじゃ。ということで俺はこれ貰うき」
「…はぁ、仕方ないな一口だけだぞ。後で水瀬に謝っておく」
「お上手ですね、彼女。すごく美味しい」
「ふむ、この味付けはまた」
(たしかに、美味しい…)