結局授業が終わっても渡すことができなくて、悶々としてるうちに柳くんはどこかへ行ってしまった。さっちゃん情報によると柳くんはテニス部の部室に行ったようで、それを頼りに部室に来たのが二分前。そして入るか入らないか、部室の周りをウロウロして今に至る。
いやいやいや、早く渡さないと柳くんお昼たべれないじゃん!どうせ部室には2、3人しかいないだろうし!
大丈夫、こういうときは勢いなんだよ。そんな麻衣ちゃんのセリフが頭をよぎる。
(よし!)
一呼吸置いてドキドキする胸を落ち着かせて、いざ参らん!
「あ、いや、あの……」
危機的状況とはこういうのを言うのだろうか。いやね、何かもうみんな見てる!やだ怖い!
2、3人だったらどれほど良かったか、部室にはレギュラーさんが勢揃いしていて、みんながみんな、私を見ていた。なんだこれ!やだ怖い帰りたい!
「何か用かな?」
暫くの沈黙のあと、頭にヘアーバンドを巻いた優しそうなクルクルパーマさんに声をかけられる。笑顔が素敵な好青年だ。
「あ、いや、あの…!」
「君、たしかF組の」
「あ、はい!水瀬柚です!や、柳くんは…?」
「生徒会室に行ってるぞ」
「すぐ戻ってくると言ってましたが…。よかったら部室で待ちますか?」
「ええええ!いやじゃああの生徒会室に行ってきま」
す、と言いかけたとき、後ろのドアが開いた。因みに私はギリギリまでドアまで後退しているので、それが柳くんだということはすぐに分かって。うあああ、叫びそうになるのをぐっとこらえ(だって!ちか、近い…!)、バンッとそれを柳くんに押し付けた。
「こここ、これ!」
「ん?」
「どうぞ!お口に合わないかもしれませんが!」
「あぁ、ありがとうな」
「で、では!私はこれにて!」
もう自分が何を言ったかすら覚えてない。制服の袖で顔を隠して、何度も礼をして、部室から出た。そして、全速力で教室に戻ったのである。
「渡せた!?」
「渡したっていうか、押し付けたっていうか…」
「よかったじゃん。渡せたじゃん」
「それより柳くんが超近かった!なんか胸板あたりかけたし、柳くん超笑顔だったし。はわああ…!」
「え、それどんな状況」