「それで、古語辞典も持ってきたと」
「うぐ、重い!重いよさっちゃん!これが試練というものだね!」
「だから電子辞書にしろっつったじゃん」
「なんかこの子あれ以来どんどんバカになっていってる気がする…」



 先日の古典の授業、ようやく柳くんに辞書を貸せる日が来たかと思えば、まさかの古語辞典だった。誰がこんなことを予想できただろうか、いや、できない。とか、無駄に反語を使ってみる。私バカじゃないもん!
 さすがに色々ショックだったけど、そんなことでへばるやつではない私は、ものの二時間で復活したのだった。



「そんな現代機器に頼りたくない!」
「どんなこだわりだよ!」
「ていうかさ、」


 何だかんだで柚、成長したよね。そんなことをいう麻衣ちゃんに、私は胸の辺りが少しだけこそばゆくなった気がした。
 確かにその通りかもしれない。柳くんを好きになって柳くんの隣になれた私は、身だしなみにも気をつかうようになったし、出来るだけ授業中寝ないように頑張ってる。教科書類もきちんと持ってくるし、あ、もちろん辞書もね!



「えらいえらい」
「ぐすん」
「泣くな泣くな、はいティッシュ」
「ずびーっ!」
「もっと女の子らしくかまないと柳くんに嫌われるよ」
「ぶえくしょいっ!」
「言ったそばからそれか!」
「ひー、最近の花粉は一筋縄ではいかないね」
「人の話を聞け!」


 わーわー言いながらも次の英語の予習をやってる二人に、私は鞄の中から袋に入ったクッキーを取り出した。
 私?私は予習しなくていいのかって?大丈夫、今日はあたらないから!



「どっから来んのよ、その自信は」
「全然成長してなかったわこの子」
「きゃー、心の声を聞かないでー!」
「いや、普通に声に出てたから」
「はれんちー!」
「すごいムカつくけどまぁいいや、ありがとうねクッキー」
「ちゃんとさっちゃんのはココア味で麻衣ちゃんのはバター味にしたからね!」
「おお、うまいうまい」
「今度弁当も作ってきてほしいなー」
「えぇ〜」
「柚の作る卵焼き、絶品なんだけどなー」
「よっしゃ任せとけ!」


 そんなこんなで明日も早起きで台所に立つことになりそうです。授業中寝ないように毎日9時に寝るからさ、わたし!

 ちょうどそのとき五分前を告げる予鈴が鳴ったので、私たちは自分の席につくことにした。英語の教科書とノートを机に出して一息。苦手な英語の授業でも辞書を必要とされる確率が高いと考えれば、それほど苦ではない!はず!


 授業開始30分、運良く当てられないのをいいことに、ふわりと眠気がおそってくる。危ない危ない。なんとかしてヤツ(睡魔)に勝たねば!と思ったときだった。

 ノートの端を破ったような紙が四折りにされている、手紙のようなもの。それが机に投げ込まれた。えっと、うん。私の左隣は柳くんで、今手紙が来たのが左からで。ええっと…!


『水瀬は料理できるか?』


 開いてみることには始まらない、と思い開いてみた。達筆な文字で書かれているそれは、言わずもがな柳くんからのものである。
 バクバクする心臓を抑えて、スーハースーハー、よし呼吸確保。語尾にハテナマークがついているということは、返事を書かなければならないということで。震える手で精一杯の綺麗な字で返事を書いて、柳くんの机の隅にちょこんと置いた。


『人並みにはできます』
『そうか』


 そうか、そうかって私はどう返せばいいのか。「うん」とかかな、いや「はい」の方が字のバランス的にはいいかも。うーんと迷っていると、パチッと先生と目があった。そうだ、今授業中だった。


『はい』
『それなら、明日弁当を作ってきてほしい』



 ……は?え、今なんて?何回読み返してみても『弁当を作ってきてほしい』としか読めなくて。新手の記号とかじゃないよね。てことは、私が柳くんのお昼ご飯を作るということで、つまり、私が作ったものが柳くんの口に入るということで!

 どうしよう。と悩んだのは一瞬で、これまた精一杯の丁寧な字で返事を書いた。


『分かった。がんばるね!』


 今日はスーパーに寄って食材調達に行こう。机の下で小さくガッツポーズをした。
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