午後の授業となれば、暖かい日差しが降り注ぎ食後ということもあって、多くの生徒がうつらうつらと船をこぎはじめる。それはもちろん私とて例外ではなくて。
 私はひざをちまちまつねり、必死に眠気を抑えていた。隣にはいつもの涼しい顔の柳くん(顔は見れないけどきっと涼しい顔のはず!)。
 だめだ、彼の目の前では眠気に負けてよだれをたらして眠りこける姿など晒しては、今までの苦労が水の泡になる。


 先生の言葉も構わずに必死に太ももをつねっていたら(地味に痛い)、「水瀬」という単語が聞こえた。
 はっとして前を見てみるも、先生は黒板に和歌を書いている。いや、あれ和歌なのかな分かんないけど。

 ちょっと柳くんっぽい声だったし、幻聴なんて私も来るとこまで来たな!、と思ったときだった。
 今度は確かに柳くんから聞こえた「水瀬、」と言う言葉。しかもご丁寧に机まで叩かれて。

 ばっ、と柳くんの方を見れば、やはりいつも通りの爽やかでかっこいいお姿をしていた。涼しげな目がわたしを見据える。……ん?わたしを見据える?え、もしかしてこれは目があってる?


「えええええ!?」


 慌てて口を抑えたが時すでに遅し。大声をあげて席をたったわたしは、もうクラスの嘲笑の的になっている。泣きたい。恥ずかしすぎる。
 先生に「すみません!何でもないです!」と慌てて誤り、いそいそと席についた。柳くんはといえば、心なしか微笑んでいるような…。微笑んでいらっしゃる!うわぁ、かっこいい…。


「水瀬、聞こえているのか」


 柳くんに見惚れているときだった。コソコソと小さい声で話しかけられる。もうやだ何コレ、今日おひつじ座1位だったっけ。幸せすぎる。

 …て、そうじゃなくて!


「ななな何ですか!」
「しっ、声が大きい」
「ご、ごめん…っ」
「辞書を貸してほしいんだが…」


 辞書?辞書と言ったか柳蓮二くん!きた!きたよこれ!ようやく今までの努力が実を結ばれるときがきたのだ。自然と鼻息も荒くなろう……ってだめだめ!鼻息抑えて!


「あ、何がいい?こ、国語も英和もあるけどっ」
「いや…」
「あ、ごめんっ、和英がよかった、かな…?」
「いや、その」
「?」

「古語辞典なのだが…」



 古語辞典、忘れてた。そういえば今は古典の時間だったっけ。なんで古典の時間に英和辞典を勧めたんだ私。


「ごめん……古語辞典は…、ない、かな。ごめん」

 いつもよりも更に小さくなった声は、きっとショックと恥ずかしさが表れているのだろう。あああ、もう明日からどうしよう。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -