「柚っ!!」


 そういえば最近の朝部活に柚の姿がなかった。謙也に聞いてみるも理由は分からず、まぁ体調でも悪いんやろ、と特に何も考えずに数日を過ごしていた。そして今日の昼、珍しくオサムちゃんが3年2組の教室にやって来て。


「柚な、登校中に怪我したらしいねん。病院行って緊急で手術して、今は保健室におる…」


 オサムちゃんらしからぬ真剣な口調は、事の重大さを物語るのに充分だった。俺と謙也は急いで階段を下り、保健室に向かう。ドアをバンっと開けて、「柚っ!!」そう叫んだ。






「うむ、苦しゅうない」



 それがなんだこの状況は。病院で緊急手術とか言ったからてっきり意識不明の重体並みだと思ってたのに、柚は今、保健室のベッドの上で午後の麗らかな日差しを浴びながらくつろいでいる。右腕を骨折したらしく、保健の先生にプリンを食べさせてもらうというオプション付きで。



「柚、お前…」
「お、謙也に白石!久しぶりー!」
「お前大丈夫なんか!?意識不明の重体やって…!」
「(やっぱ謙也も思っとったか…)」
「…は?いやいや、元気だよ私は。あ、先生、カラメルも一緒に口に入れて下さい!」
「「…はぁ、」」


 こんな状況、誰だろうとため息のひとつもつきたくなるだろう。現に今、謙也はあきれた顔で柚を見ている。
 まぁアレや、こいつが無事なだけ良しとしよう。


「あ、先生。この人たち来たんでプリンとられないようにお願いします!」


 前言撤回。ていうかその冷蔵庫の中に何個プリン入ってんねん。



「ていうかほんまに大丈夫なん?」
「おー、階段から落ちて右腕骨折だけとかすごくね?」
「階段から落ちたん!?」
「うん、落ちた」
「どこの!?」
「部室棟の裏の錆び付いた階段あるじゃん?雪の日だったからさー、そのままつるってなってボトって落ちた」
「アホやん!めっちゃアホやん!」
「因みに持ってたおにぎりは無事だった」
「もしかしてそれを庇って落ちたとか言わへんよな…?」
「うん、庇った」
「アホォオオオ!!お前ほんまもんのアホやな!ほんま!」
「てめっ、たらこ味なめんなよ!!たらこ味とか高いもんは普段買えないんだよ私は!」
「お前は命よりたらこ味なんか!命を大事にせぇって学校で習わなかったん!?」
「シーチキンならちょっと迷ったかも」
「知らんがな!」
「ていうかギプスってちょっと夢だったんだよね」
「知らんがな!」



 そのとき、予鈴が鳴ったので俺たちは教室に戻ることにした。「プリン食べすぎんなよ!」と言うのも忘れずに。
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