冬の凍えるような寒さに、はいた息は白く、広がるように空気の中に溶けてゆく。手先の冷たさは異常なもので、教室から手袋を持ってくればよかったな、と思っていたら丸井が軍手をくれた。…一応寒さ対策にはなるけどさ。
「ほらお前、ぼーっとしてないでそっち持てよ」
「えー、重いの持てるかな。幸村は?」
「ゴミ捨て行った」
「仕方ない…」
冬休み前のこの時期になると、学校全体も少し落ち着いてくる。それはこの寒さからか分からないけれど、一年の最後の大掃除ともなれば再び若さからありあまる活気が満ちてきて、今現在、この部室棟は異常に騒がしい。
今年、運良く(悪くと言うべきか)クラスの掃除分担がないのは、私と丸井と幸村で、部室の掃除をやることになっていた。「俺もこっちで掃除するんじゃー…」と言って聞かない仁王を無理やり国語研究室に押し戻したのは、20分ほど前のこと。
「全っ然片付かないじゃん!どういうことー!」
「赤也と仁王の私物が多すぎだろぃ。あとお前、マネージャー」
「ん?」
「二週間に一回でいいから、軽く掃き掃除してくれ」
「イエッサー」
本当にコイツわかってんのか…と言いながら、畳を裏返そうとする丸井を、手をこすりあわせながら見ていた。少し動いたくらいで、この殺人級の寒さがどうにかなるわけがない。ずびっ、鼻をすする。
丸井って案外こういうこと率先してやってくれるんだな。今年の部室掃除担当が丸井でよかったとしみじみと思っていたら、「お前も手動かせよ!」と言われた。おっしゃる通りです。
寒さの為にも、すごい勢いでドアをふいていたら、ちょうど階段を上ってくる幸村を見つけた。
「おー、幸村!おつかれ」
「お疲れさま。どう?進んでる?」
「丸井のおかげでね」
「これ、袋いっぱいもらってきたから、せっかくだから不要品の整理しちゃおうよ」
「そうだねー。そもそも物が多いんだもん」
「っと、その前に」
マフラーに顔を埋めていた幸村が、ジャージのポケットから3本のコーンポタージュを取り出した。なんでも自販機で買ってきてくれたとか。
「ちょっと休憩しようか」
「うおー!幸村ありがとー!」
奥でクモの巣と戦っている丸井を呼んで、ドアのところにしゃがんで3人でコンポタをいただく。カコンとタブをあけると、湯気と香りがふわぁと広がって、手に感じる温もりも加わってか、なんだかすごく幸せに感じられた。
もしかしたら、となりにいる2人のおかげかもしれないけれど。
「来年で部活も終わりかぁ」
「寂しくなるね」
「君たちには頑張ってもらわないと!」
「「柚もね」」
「体育祭に文化祭に、それから受験に」
「おー怖っ!一年なんてあっという間じゃん」
「待ってくれないね、高校生活は」
ふぅ、はきだす息が白く消えた。
−−−−
プリムローズさまへ提出。
title : 確かに恋だった