なんでこんなことになったのか。私にも、私と同じ怪訝な顔をしている財前にも分からないだろう。私たちは今、白石の家にいる。



「4月14日は何の日でしょうか!」
「…知りません」
「なんや柚寂しいな、俺の誕生日や」
「自分で言っちゃうあんたの方が寂しいよ。じゃっ」
「それでな」
「ちょいちょい、見て分かんない?私今から帰るとこ」
「俺の彼女予定あるらしくてな、しゃーないからテニス部で祝ってや」
「すまん帰る」
「闇鍋やろうぜ!」



 ……そうだ、ことの発端は先日の会話になってない会話でした。財前の怪訝な目線は私へと向けられる。今にも「なんで断らなかったんやボケェ」と言いそうな鋭い視線だ。私は何も悪くないのに。
 しかしなぜ闇鍋?と後から聞いたら、一回やってみたかったんや!とキラッキラした目で返された。心底アホだと思った。

 そんなこんなで、私、謙也、財前、金ちゃんが白石の家の前で各々食材を持って白石を待っている現在お昼の時間を回ったところ。ワイいっぱい食うためにお腹空かしてきたんやでー!そんなことを無邪気に言ってのける金ちゃんに涙が出そうになった。


 因みに私が持ってきたのはちゃんとした鍋の材料である。糸こんにゃくだ。やつらに(ていうか主に白石に)一泡ふかせてやりたいよりも我が身の安全を優先した結果が糸こんにゃく。



「おーお前らよう来たな。ささ、上がってや」
「おじゃましまーす」
「あ、鍋の下地な、俺はキムチがええな思てたんやけど友香里がそんなんまずくなるの目に見えてる言うからな、仕方なくコンソメにしたわ」
「正論だ…」



 そうして、私たちはキッチンにいる白石の妹の友香里ちゃんに食材を渡した。因みに彼女は公正な立場で鍋に食材を入れてくれる係である。私が立候補したのにまったく相手にされなかったのはいい思い出。
 「いつもクーちゃんが迷惑かけてすみません」と丁寧におじぎする姿を見て、本当にこいつら兄妹かと思う一方でまともでいてくれてありがとうと泣きそうになった。



「さ、電気は消したし」
「友香里ちゃーん、いつでもええでー!」
「ほな、行きますよ覚悟はええですか」
「何そんなにヤバイの」



 言うが遅いか、部屋に入ってきた友香里ちゃんからはものすごい匂いがした。よく考えたらコンソメもやばくね?真ん中にあるコンロにそれを起き、友香里ちゃんは逃げるように足早に去っていった。



「俺闇鍋とかやったことないんやけど、なんや混ぜればええんか」
「たぶん」
「……」
「…」
「……」
「そろそろええんちゃいますか?」
「せやな」
「……」
「いやもうええ言うとるやろ」
「…」
「……」
「ていうかさ、なんか言いづらいんだけど目慣れてこない?」
「せやな、うっすら皆の顔見えるわ…」
「うっすら鍋ん中も見えますわ…」
「……」
「じゃーんけーん、」



 と、いう訳でじゃんけんの結果金ちゃんから時計回りにそれぞれがお玉で一すくい分食べることになった。極端に少なかったりしたら後から毒手が待ってるらしい。よし、がんばって糸こん探してそれだけ食べよう。



「ワイもらったでー!次はい謙也」
「あーい…、え、アカン何これ」
「え」
「どうしたの?」
「えええ、嘘やろなんで…」
「だから何があったの!」
「なんでこんな…、え、」
「いいからさっさと言え!」

「ミミズが…入っとる……」



 そんな謙也の発言にみんなが顔面蒼白になったのは言うまでもない。一番手の金ちゃんは中身に手をつけた途端「まずい」も言わずに倒れるし相変わらず鍋からは異臭が漂うし。…え、ていうかミミズ?



「アカン!なんか動いとる!」
「お前か白石いいい」
「ちゃうわ!俺は青汁を……アカン、言うてもうた」
「青汁も十分やばいやん!」
「青汁は健康にいいんやで!」
「常識的に考えて!頼むから常識的に考えて!」
「これ一回電気つけた方がええんちゃいます?」
「アカーン!それじゃ闇鍋やあらへんくなるやろ続行や!」
「俺これ食いたくないんやけど…」
「いいよ謙也、それ食べた人間の末路がアレ(金ちゃん)だよ」
「ほな、みんなに行き渡ったら一斉に食べよか」
「うわ、次俺やないっすか」
「財前なら何でも食べられる!いけー全部食えー!」
「無理やろ、常識的に考えて」
「次柚やで」
「う…、くさい」
「最後は俺やなー…はい、ということでいただきますしよか!」



 こんなどうしようもないことでも、結果的にみんな盛り上がるんだよね。それは私も例外でなくて。
 そうそう、例のミミズは私がもってきた糸こんにゃくでした。めでたしめでたし。




「なんか……」
「まっず…」
「ちょっと待て、何これ生クリーム持ってきたやつ表出ろ」
「あ、それ俺かもしんないっすわ」
「財前か!」
「せやかて部長、前“誕生日はケーキやなくてロールケーキで祝われたい”言うてたやないですか」
「お前が一番常識を考えろおおお!!なんで今闇鍋にロールケーキ入れようとしたんだよ!」
「30%オフやったんで」
「ていうか白石も白石だわ!ちょっ、まじで彼女持ちとか知らねぇ一発殴んないと気がすまねぇ」
「やめろ柚っ」
「うーん、闇鍋ってあんま美味くないな」
「そらそうやろ。闇鍋の意味分かっとる?」
「青汁にロールケーキにってそりゃまずくなるわ」
「謙也さんは何もってきたんすか」
「俺か?俺はアレや、イチゴや。ばあちゃんからもろうたんやけど余っててん」
「因みに金ちゃんはたこ焼きやで」
「…テニス部には誰一人常識人がいないのかよ」
「ていうかコレ余ったのどうすんねん…」
「…オサムちゃん行きやな」
「まじで!?」




――――
ちょっとかなり早いけど、白石はぴば!全く祝ってない小説になっちゃったけどはぴば!
半分事実です。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -