「フォッフォッフォ、こりゃ楽チンだぜぃ」
「くっ、てめまじで覚えてろよ」
変な笑い方をする丸井を背負うわたし。なんでこんな状況になっているのだろうか。私にも分からない。ただ、いつものように部活を終えてみんなで帰って、途中仁王たちとバイバイをして丸井とたわいもない話をしながら帰る、はずだった。
「なぁ、ジャンケンで負けた方が勝った方をおぶって帰らねぇ?」
丸井がそんなバカげたことを言うからこうなったのだ。カバン持ちなら分かるけど、なぜおんぶ?そうだ、丸井がいけない。しかしこのバカげたことをやっている私も充分にバカなのである。
「カバンはどうするの?」
「そんなもん両手に通せばいいじゃん」
「…よっしゃ、じゃーんけーん」
もう何敗目か分からないが、わたしはことごとくジャンケンに負け、二人分のカバンを持ち丸井をおんぶしながらひたすらに歩いている。屈辱的だ。
何よりいくら男子の中では小柄な丸井といえど、人間の体重というものはそれなりに重いのであって。幸村に頼んで、1週間丸井に甘いもの禁止令を出してもらおうと企んでみたりもした。
「しぬ…」
「あの角曲がったらまたジャンケンな」
「っし、うおおおお」
と、いうことで、必死に走って角に着いたのでジャンケンである。女子中学生が男子中学生をおぶる姿なんて、まわりから見たらどうなんだろう。仲睦まじいカップルというところか。なんだか悲しく思えてきた。ていうかか弱い女の子に背負わせるか普通。と言ったらたぶん「お前が女の子とか…!」って爆笑されるんだろう。今度は憎らしく思えてきた。
「はい、じゃーんけーん」
「ぽおおんんん」
しばらくの沈黙。
プチン、と何かが私の中で切れて、私は両手にもっているカバンを思いっきりコンクリートに投げつけた。
「なんっでやねん!!」
「……」
「え、まじでなんで!?細工してないよね!?なんであんた一回も負けないの!?」
「……ていうか、」
「あ゛ーん?細工してたとか言ったらまじ黄泉送りしてやっからなまじで!」
「お前、さ、」
「オウオウオウ!なんだしけた面して!落ち込みたいのはこっちだっつの!何が悲しくてこんな仕打ち受けなきゃいけないのよ!」
「…お前、自分がパーしか出さないこと分かってねぇの?」
なぜか私の前で丸井が土下座をしているが、そんなことは今日の真田のパンツの色くらいどうでもいい。
丸井から聞いた事のあらましはこうだ。仁王から「柚はジャンケンでパーしか出さないらしいぜよ」と聞いた丸井は、「そんなバカなことあるかーい」と思い今日の帰りにこれを提案したという。最初はギャグか何かかと思ったが、本当に私がパーしか出さないので、どうしていいか分からず、結局私の堪忍袋のなんとやらが切れて今に至るという。
「……私気づかなかったわ…」
「ほんっとバカだな!」
「あ゛?」
「すんませんっした!」
とりあえず仁王を殺りにいこうと思います。