「柚ー!荷物のまとめ終わったー!?」
「おーう」
「ほら、あんたももう大学生になるんだから、少しはしゃきっとしなさい」
「うーん…」
まず引越し業者にほとんどの荷物を持っていってもらって、数日後には私も東京を離れることになる。住み慣れた土地を離れるというのはやはり寂しいもので。床に寝転がりながら携帯のアドレス帳を開き、”不二周助”をクリックした。
中学卒業後しばらく連絡はとってないからつながるのかも分からないけれど、どうしても消すことが出来なかった彼の名前に、今はなつかしさを感じる。
「柚ー、元気かー」
「いや、そういう君の声が死にそうなんだけど」
「荷物まとめんの大変でさ。柚は終わった?」
「うん」
「いつ行くんだっけ?」
「4日後」
「うわ、もうすぐじゃん!」
中学高校と仲が良かった親友とも呼べる友人とは、これからもこんな風に連絡をとっていくんだろうなぁ。そうだったらいいなぁ、と思う。
卒業式でわんわん泣いていた彼女を思い出し、ふふっと笑みがこぼれた。
「あ、そう言えば不二くんさぁ。柚聞いた?」
「…あ、聞いてないかも」
「大学はだいぶ遠いらしいよ。どこっつってたかなー、九州とかそんな感じ」
「そ、そっかー」
久しぶりにさっきの写真を見たからだろうか、周助の名前を聞いた途端、過敏にはねあがる心臓に、少しだけ焦ってしまう。
高校時代には彼氏もいたし(卒業式で別れたけど)、恋愛も何回かした。それでもやっぱり初恋の相手とは特別なもので。好き、とは違うであろうこの感情は、何と名付ければいいのだろう。
「…ま、いっか」
「え、何が?」
「んーん。こっちの話」
明日は18年生まれ育った町の見納めでもするかな。電話を切ってそんなことを思った。