いつの間にか雪は止んでいたらしい。周助はさりげなく畳んだ傘を右手にもってくれて、反対の左手は私の右手と繋がれていた。それから、2人で歩く駅までの道。

 どちらともなく離れた体温に少しだけ寂しさを感じたわたしは、周助の手にそっと触れた。彼の手はとても冷たくて手袋を貸してあげようとしたら「こっちがいい」と微笑んで手をひかれた。そんな先程のことを思い出しながら、ぎゅうと握る手を見つめる。


「どうしたの?」
「あったかいなぁって思って」


 ふふっと笑いかければ、周助も優しく微笑んでくれた。


「周助はどんなこと考えてた?」
「僕は幸せだなぁって思ってた」
「…うん」
「あと、中学のときのこと思い出してた」
「…手つないだのって初めてだよね?」
「うん。だから、なんだか不思議な気持ち」
「わたしも」


 駅まであと15分もないだろう。この時間に終止符を打ったその瞬間、すべてがリセットに向かう。止まっていた心の時間が動き出すためには2人は離れなければいけないと、私も周助も本能的に分かっていた。でも…。


「ずっと、このときが続けばいいのに」


 人間とは欲深い生き物、なんてよく言ったものだ。周助に好きと言われたときは、もう十分なくらいに幸せだった。今の私はもっとを望んでしまう。
 この時ほど駅がもっと遠ければいいのにと思ったことはない。こんなんじゃダメだ、と思っても自分の身体に嘘はつけないのだ。ポロポロとこぼれる涙で視界がゆらぐ。やめてよ。私は周助にそんな悲しい顔をさせたいわけじゃない。


「ご、めん…っ」
「…僕も、本当は離れたくないよ」


 いつか見た、世界のすべてを捨てて愛する人と逃避行する物語をふと思い出した。私にはそんな勇気はない。けれど、主人公の女の子の気持ちはよく分かる。


「けれど、僕らは曖昧なままでいてはいけない」


 そろそろ大人にならなくちゃ、そう言った周助の目から迷いは消えていた。…私も決心をしよう。
 次会うのは果たしていつだろうか。でも、今、私と周助が互いに愛しく思っているのは確かで。手のぬくもりがそれを感じさせる。



「ばいばい、周助」
「ばいばい、柚」


 改札口をぬけた私は、もう振り返ることはしない。


fin.

Happy Birthday!
Fuji Shusuke
2012.2.29

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