「餅つきをしよう」
冬休みもあと残り2日で、新年なんて雰囲気もどこかに飛んでいってしまった、宿題やってないどうしよう、そんなある日のこと。真田から冒頭にあるメールがきた。
…餅つきってあんた、もう年越してますよ。
「今さら?なにゆえ」
送信ボタンを押した瞬間、今度は電話の着信音がなった。ディスプレイには幸村精市の文字。
「なにー」
「真田からメールきた?」
「来た来た。え、まじなのアレ」
「うん。今真田ん家でやってるから、柚も来なよ」
「うー、でもなぁ…」
「宿題?」
「せやねん」
「丸井と仁王は柳の写しにくるみたいだよ、今日。まったく、餅つきとどっちが目的なんだか」
「まっ、まじでかァァァ!」
「柚も来れば?」
「行く!超行く!マッハで行くから待ってて!」
超行くって何だよとか電話の向こうで聞こえたけど気にしない!とりあえず、終わる気配の見せない英語の問題集をかばんにつめこんだ。
この寒い中チャリで全速力というのは非常に危険なもので、「お餅つきやるならこれ持って行きなさい」と母親から渡された軍手がこんなとこで役に立つと思わなかった。恐るべし、母の愛。
「おー、柚先輩!」
「っはー、疲れた。あけおめ、赤也!」
「あけおめっす!ははっ、先輩の鼻真っ赤だ」
「あー寒かったからね。…赤也はその鼻水を何とかしようか」
「えっ、まじで」
「感覚なくなるよね。寒いとこ待たせてごめん」
「…うわー、優しい柚先輩とかうわぁ」
「赤也はティッシュはいらないようだね」
「いるいるいります!すみませんって!」
「分かればよろしい」
門のところで私を待ってる係であったろう赤也は、特に去年と変わる様子もなく。いや、変わんないよね普通に考えて。
赤也宿題は?と聞いたら、終わりましたーとどや顔されたのがなんかムカついたので、ボデーに一発いれといた。
庭では、真田と幸村のコンビネーションのよさとか、柳の割烹着姿とかにびっくりした。(似合いすぎるって)仁王と丸井は、勉強に飽きたのか福笑いやってるし。コソーっと柳の問題集を奪ったら、ボデーに一発入れられました。
「あけおめ。なんだよ、やってないんなら貸してよ」
「あけおめ。今からやるとこじゃったんじゃ!」
「あけおめ。お前ら挨拶だけはちゃんとやんのな」
こういう日常ってなんかいいなと改めて思うの。畳の匂いと、独特の騒がしさと。この感覚を私は一生忘れないんだろうな、と思ったら、頬がゆるむのが自分でもわかった。
「なにお前ニヤニヤしてんの、気持ち悪っ」
「…丸井だけは早急に記憶から消そうかな」
「は?」
「いーえ、なんでも」
「餅できたぞー!」
「「わーい!」」
「うおっ、やわらかっ!柚先輩見て見て、こんなにのびる!」
「私の方がのびるー」
「俺が一番じゃもーん」
「悪かったな、幸村たちに任せっきりで」
「いいよ別に〜」
「片付けはお前たちだからな」
「「えっ」」