朝、ホームルームが始まる20分前。珍しく朝早く登校したのが悪かったのか、俺は前の席の水瀬につかまってしまった。90゜ずらした椅子に座り俺の机に肘をのせた彼女は、口からはよくまぁそんなにペラペラしゃべれんなってくらいに単語を発す。
「いや〜もう本当かっこいい!ね、謙也もそう思わない!?」
「はは、せやな」
否定なんかしたら即あの世行きだ。これは相談なんかじゃあらへん、気にしたら負けや。
「本当、見た瞬間に運命を感じたっていうか!私元々黒髪とメガネが好きなんだよ、彼もうめちゃめちゃタイプなんだよ!しかもクールだし、テニスやってるときなんてもう鼻血もんだよ!はぁ、かっこいいなぁ。私のこと知ってるかなぁ。なんて思ってるかなぁ。謙也従兄弟なんでしょ、それとなく聞いてみてよ!」
「…まぁ、いつかな」
「はぁぁあ、本当かっこいい。忍足侑士くん!」
末期や。あいつが水瀬を知ってるとしても四天宝寺のマネージャーくらいだろう、ましてや覚えている可能性はゼロに近い。これだから恋する乙女の脳内は困るねん。年がら年中ピンクなんか。
そんなことを考えてる俺なんか露知らず、水瀬は「きゃっ、名前呼んじゃった」なんてほざいてるし。末期や。
「もしかしたら目合ってたかもしれないし!うああ、本当どうしよう緊張してきた!私マネージャーやっててよかった!氷帝に転校したい!」
なんで今緊張すんねん。もう訳が分からん、付き合ってられん。はぁっとため息をはいたと同時に教室のドアが開く。現れたのは初めて目にする、メガネをかけた白石だった。
「あ、おはよ。しら……えぇぇぇえ!!」
「なん?二人ともアホ面して」
「おま、ちょ、メガネ!」
「これか?最近視力落ちてきてなぁ。どう、似合うとる?」
「超似合ってる!!白石超かっこいい!」
「おいぃぃ!誰でもええんかい!」
「照れるわぁ」
「お前さっきまで侑士侑士言うてたやん!」
「俺、明日から黒髪にしようかと思てんねんけど」
「うきゃぁあああっ」
「それもう白石やあらへんわ」
なんやこの状況。水瀬は白石に抱きついてるし、白石は白石でにやにやしてるし。色々おかしない?俺が間違うてるんか?
また、ため息が出た。同時にホームルームを告げるチャイムが鳴った。
((作戦成功!))