キーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴った。ということは、今は授業が終わったところだろうか。私はここでは見慣れないだろう制服に身を包み、来賓用のスリッパを拝借して、慣れた足取りで三年の教室に向かった。
「ジャーッカールー!!」
バンッと教室のドアを開けると、さっきまでの騒がしい教室は一変、一気に静かになり、みんなの視線が私に注がれているのが分かった。えっと、何ていうか。とりあえず、あの見つけやすい頭を探し(窓側に発見!)、伏せている奴の首に腕をからませそのまま引き上げた。
「ぐおお、おお…」
あまりに苦しそうなので、力は加えないであげよう。ジャッカルは始めはビックリしてたけど、ようやく状況を判断して「はぁ」ため息をひとつついた。
「先輩、高校は?」
「サボり」
「いいんすか」
「いいのいいの。だって大事な後輩の誕生日だもん」
「とりあえず離れてください」
「だからね、これ、はい」
「離れてくださーい!」
「だからこれー!」
話が噛み合わないのはきっとジャッカルのせいだよね。わたし、高校生だもん。わたし、大人だもん!
ジャッカルが無理矢理わたしの腕を引きはなそうとするので、私は大人しくそれに従い、彼の目の前にきれいにラッピングされたそれを差し出した。ふふ、驚いてる驚いてる。
「開けてみ」
にっこり笑ってそう言えば、「ありがとうございます」なんて言いながらリボンをほどきだした。丁寧にやるところがなんともジャッカルらしい。
私はジャッカルの前の子の席を借り(休みでよかった)、彼の机に頬杖をつきながら彼の反応を待った。
「…なんですかこれ」
「見ての通り、コーヒー豆」
「いや、それは分かるんすけど」
「去年言ったじゃん、来年の誕生日はコーヒー豆あげるよって」
「っていうか、先輩俺の誕生日覚えてたんすね」
「当たり前!言ったでしょ、大事な後輩の誕生日だもん」
そう言って、手の甲に油性マジックで書いた「11/3ジャッカル誕」を見せれば、「覚えてないじゃないすか」なんてジャッカルは笑っていた。そのとき、タイミングがいいのか悪いのか、五分前の予鈴が鳴った。
「おっと!じゃあ私帰るね!」
慌てて席を立つと、ジャッカルははにかんだような笑顔で「ありがとうございました、これ」と言ってくれた。それから、「時間あったら部室にいて下さい」とも。私は嬉しくなって、ちょっぴりルンルン気分で教室を出ようとすると、再びジャッカルに呼び止められた。
「先輩、」
「ん?」
「スカート、短いっすよ」
まったく、本当に可愛い後輩なんだから。私はペロリと舌を出して見せ小さくピースをして、中学時代たくさんの時間を過ごした、そんな部室に向かった。
「柚先輩!?」
「わ、ブン太久しぶり!あ、これお土産のお菓子ね」
「サンキュ!」
「水瀬先輩、せっかくですからゆっくりしていって下さい」
「相変わらず真田は堅いなぁ」
「柚せんぱぁあいい!」
「わ、びっくりした!赤也くんも久しぶり!」
「会いたかったっす!」
「幸村くん、みんな元気みたいだね」
「フフフ、困るくらいなんですけどね」