夕日がきれいだった。ただそれだけの理由で、いつもは近所をぐるっと回るくらいの犬の散歩を、近くの公園まで足をのばしてみた。ボールと袋と、それらを手提げに入れて愛犬に「行こっか」と言えば、とても嬉しそうな顔をした。やっぱり可愛い。

 坂を上って比較的標高の高い公園の丘に来てみれば、先客がいた。スケッチブックに鉛筆を走らせる横顔はすごく綺麗で。男の人なんだろうけど素直に綺麗だと思っていたら、気づけばじーっと見ていたようで目があってしまった。慌てて反らすと、彼から声をかけられた。


「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「犬の散歩、かな?」
「あ、うん」
「触ってもいい?俺、ラブラドール好きなんだよね」
「あ、どうぞ」


 彼が愛犬の体をわしゃわしゃやっているのを見て、何だか嬉しくなった。黒いラブラドールってよく怖いって言われるんだけどな。この人いい人だな、直感的にそう思った。


「名前は?」
「ナナって言うの」
「ナナちゃんかぁ」
「…き、君の名前は?」
「幸村精市」
「幸村くん。綺麗な名前だね」
「ありがとう」


 ニコッて笑う幸村くんに、私も微笑みかける。ナナもこの短時間で幸村くんになついたようで、すりすりと顔を寄せていた。


「名前、何ていうの?」
「え、だからナナ…」
「君の名前」
「あ、水瀬柚!」
「水瀬さん」


 どこの高校なんだろう?とか不思議に思っていたら、幸村くんの視線が私の手元にいっているのが分かった。「いつもボールで遊んでるんだ」と言えば、幸村くんは「俺に遠慮しないでやっていいよ」と言ってくれた。遠慮しないでボールを投げたら円を描くように空に飛んでいって、それを何度も繰り返していると幸村くんが「俺にもやらせてもらえない?」と言ってきた。もちろん、私は「うん!」と返事をした。


「わぁ、すごいね」
「そうかな」
「運動部なの?」
「テニス部だよ」
「すごい!」


 幸村くんの投げたボールは原っぱの奥の奥まで飛んでいって、ようやくそれを見つけたナナが戻ってきたかと思えば、鼻の頭に土がついていて二人で笑った。それを見て幸村くんがスラスラと鉛筆を走らせるものだから、チラッと見てみたらその上手さにびっくりした。すごく上手で、前描いたたくさんのお花とか空とか見せてもらって。

 楽しい時はあっという間に過ぎていった。



「じゃあ、私はこれで」
「うん。今日はありがとう」
「こちらこそありがとう!すごい楽しかった!」
「よかった」
「また、さ、」
「うん?」
「私よくここ来るから、また見かけたら、声かけてくれると嬉しいなぁ、なんて…」


 恥ずかしさゆえに目を伏せていると、幸村くんのクスクス笑う声が聞こえた。何ごとだ、と思って見てみれば幸村くんは「当たり前だよ」って笑ってくれて。「そうだね」って、私も笑った。


「また、いつか」
「うん。またいつか会おうね!」


 バイバイ、二人の背中は別々の方向に歩き出した。


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