「実花ちゃんと佐藤、ついに付き合ったらしいよ」
「へー」
「やっとだよね」
「両思いなのは目に見えてたからな」



 放課後の教室、私は丸井の前の席に座り、彼の消しゴムをいじりながら話をしていた。

 さかのぼること数十分前、忘れ物を取りにきた私は窓際に丸井を見つけた。一年からずっと同じのクラスだと必然的に仲は良くなるもので、いつも通りに声をかける。どうやら今日は、テニス部の放課後部活は休みらしい。

 そして話すこと数十分。話題が尽きることはない。



「水瀬は彼氏とかいらねぇの?」
「いらない」
「即答かよ」
「めんどくさいじゃん。色々悩まなきゃいけないし」
「楽しいこともあるぜ?」
「そんなのほんの一部でしょ」
「もしかして経験談?」
「中学時代の黒歴史かな」
「ははは、何だそれ」
「見てて微笑ましいのは好きだけどね〜。相談受けるのと自分の身にふりかかるのは違うもん」


 じゃあ好きなやつもいないんだ?そう笑いながら聞いてくる丸井に、私も笑いながら「いないに決まってんじゃん」と返した。


 気づけば辺りは暗くなっていて。山の端にある夕日も、もう姿を隠そうとしていた。



「じゃあさ、」


 「ん?」私は丸井の消しゴムを机に置き、伏せていた目をあげた。丸井は今も、笑っている。笑うというか、正確には口角をにやりとあげているというところだろうか。



「俺はだめ?」
「何が?」
「お前の彼氏」


 きっと面白半分で言っているのだろう。私と丸井の仲じゃないか。私もにやり、と口角をあげた。


「好きなの?」
「さぁね」
「…へぇ」


 そのまま丸井は立ち上がると、コートを羽織りマフラーを巻いた。相変わらずチェックのマフラーが似合っている。


「帰るか」
「おー」



 いつも通りの帰り道。何も変わったことはない。


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