今日の最低気温は今年最も低く、12月中旬並の寒さになります。たしか朝の天気予報でお姉さんがそんなようなこと言ってたな、そんなことを思いながら、公園のブランコを勢いよくこいでみた。


 秋も終わりに近づいた頃で、はらはらと舞い落ちる葉が目立つようになってきた。それをつまんで上を見上げると、爽やかな晴天をバックに朝日に光る紅葉があって。なんだ、寒いって言ってたけど日差しはあったかいじゃん。再びブランコをこいだ。



「あ、」
「?」
「あんた、部長んとこの…」
「だれ?」


 シャリッと落ち葉を踏む音がしたかと思えば、後ろにはヘッドホンをつけて缶コーヒー片手に無表情の……誰?どうやら相手は私のことを知っているらしい。しかし私は彼を知らない。誰だ。


「財前」
「ざいぜん?」
「俺の名前」
「へー、財前くん」


 どっかで聞いたことあるような、ないような。曖昧な記憶に、まぁいっかと蓋をして再びブランコをこいでいたら、いつの間にか財前くんとやらが隣のブランコに座っていた。



「あんたもサボり?」
「おー。こんな天気のいい日は学校なんかやってられん」
「千歳先輩みたいやな…」
「ん?」
「なんも」
「財前くんもサボり?」
「古典なんかやってられへんわ」


 白い湯気を放つ缶コーヒーをうらやましく思いながら、マフラーに顔をうずめた。日差しが温かいとは言え、晩秋の朝だ。やっぱり寒いものは寒い。


 ふと、ポケットの携帯のバイブ音が響いたかと思えば、それは隣の席の白石からのメールで。はよ学校きぃやという短文に、添付(謙也の寝顔)が一枚。迷わず保存する。うん、今回のもなかなか謙也のアホっぷりが発揮されているな。



「うわ、謙也さん爆睡やん」
「人の携帯を勝手に見るもんじゃないよ」
「それ赤外線で送ってや」
「え、無視?無視なの?やだー財前くんツンデレだったんだ」


 パコッと空の缶で頭を叩かれる。あーあ、缶コーヒー一口もらおうと思ったのにな、そんなことを思ってたら、ヤツはポケットから二本目の缶コーヒーを出した。どんだけ好きなの缶コーヒー。


 本当は、謙也と知り合いなの?とか、どこの高校?とか聞きたいことはいっぱいあったのに、気づいたら携帯をとられていて。財前くんは器用に私の携帯をいじっていた。


「ついでにアドレスももらったで」
「なんでやねん」
「関西弁下手」
「こちとら生粋の江戸っ子なんで」
「俺のアドレスも入ってるから」


 そう言って財前くんは、私の携帯のアドレス帳の“財前光”を指出した。光くんって言うのか。アドレス悪用されたりしないよね、大丈夫だよね。


「ん、」
「ん?」
「一口、欲しいんやろ?」
「なぜ分かった」
「顔に出てるわ。こんなに分かりやすいんもなかなかおらんで」


 差し出された缶コーヒーを遠慮がちに口に含んでみれば、それは意外や意外、微糖のコーヒーで(ブラックかと思ってた)。
 口の中に広がる優しい甘さと温かさに思わず笑みがこぼれ、ありがと、そう返そうと思ったら、もう財前くんの姿はなかった。

 謎だ、謎すぎるぞ財前光。とりあえずは謙也をからかうために学校に行こうと思う。




「えええええ、財前くんって白石と謙也の後輩なんだ!」
「よく教室来るやん、知らなかったん?」
「知らなかった。しかも敬語じゃないから同学年だとばかり…!」
「お前、絶対見下されてんで」
「財前光、恐るべし…!」
「ああああ!!なんやコレ!財前からメール来たんやけど!」
「あー…それ私が白石からもらった謙也の寝顔No.59」
「なんやNo.59て!何枚あんねん!」
「なんで財前が持ってんのん?」
「とられた」
「あああ、今日の部活で色々言われるぅー!」



――――
財前は、意外な微糖の缶コーヒーとか飲んでたらいいよ。
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