! 死ネタ
(エゴイスト→スターダスト→ダイヤモンドダスト)
あなたはそれを、愛情と言った。わたしはそれの摂理を問うた。
いつもの休日、何をしようかなと考えながらトーストを食べていたときだった。ふいに光る携帯を見てみればそれは真田からの電話で、内容は幸村の容体が急変したとのことだった。
容体が急変?幸村の?頭が理解するまでに時間がかかって、ようやく出た言葉は「…なんで、」だった。真田に聞いてもしようがないのに。幸村のいない生活にようやく慣れた“いつも”の生活を送る予定が、少なくともこのとき崩れ落ちた。
それからはあまり覚えていない。気づいたら病院に来ていて、案内された場所は霊安室だった。バンッとドアが閉まる音がやけに響く。部屋は線香の香りと異様な空気に包まれていて、両親と、それから真田とブン太とジャッカルたちが、泣いていた。
コツコツと私の足音がなる。ドクドクと、私の心音が何かを訴えている。分からないままに、白い布をめくったら、見たこともないような白い顔の幸村がいた。
「…先ほど、息を引き取った。死因は、」
死因とかなんとか、難しいことはよく分からないけれど、よく、分からなくて。なんで、なんで死んだの…?
しばらく立ち尽くしていた私は、ポタリと幸村の頬に滴が落ちるまで、泣いているということに気づかなかった。
「な、んで?幸村…っ」
しぼりだすように問うても、答えが返ってくることはない。視界がゆがんで、誰かが部屋から出ていって、幸村の、幸村が…。あれ、私はなんでここにいるんだろう。
―――頭が考えることを止めた。涙が出て、幸村の死が怖くなった。もう、笑いかけてくれることも手をつないでくれることも、生きていてくれることも叶わない。そういえば彼が最後に笑ったのはいつなんだろうか、そんなことを思った。
私はベッドの横でひたすらに泣き崩れた。冷たい幸村の手を握って。何かを吐き出すように、そしてあわよくば自分も幸村の元へ行けたらどんなに良いだろうか。
涙は枯れることを知らなかった。
「柚、」
「……?」
しばらくして、誰もいない霊安室に真田が来た。私が泣いている間、気をきかせて一人にしてくれたらしい。
真田曰く時間が迫っているということで。泣きすぎたせいか頭がぐわんぐわんする。扉が閉じる前、最後に見た幸村の顔はやっぱり白かった。
夜の駐車場はとても静かだった。部屋着のまま来ちゃったから、少しだけ肌寒い。
すると、真田が上着を貸してくれて、それから腫れた目を冷やすための氷と一枚のルーズリーフを手渡した。
「幸村の遺言だと思え」
まっすぐに私を見る真田の目は、涙で濡れていた。みんな、みんな。悲しくて虚しくて悔しくて。私だけじゃない。
本当は少しだけ怖かった。けれど、私は震える手でそれを光にかざした。幸村のきれいな字をゆっくりと追う。
「……っ、ゆき、むら…!」
幸村、幸村。幸村。何度言ったって足りない。何度も、叫びたい。だって、こんなにもいとおしいのに。彼はいない。
「幸村ぁぁああっ」
手紙とも遺書ともとれるそれは、幸村の優しさで溢れていた。きっと、彼は最後の最期まで優しくて温かい人間だったのだろう。
たくさんのごめんねと、もっとたくさんのありがとうを込めてその紙を抱きしめていたら、真田に肩をたたかれた。ここでいつもみたいに「たるんどる!」とか言ってくれたら笑えるのにね。真田はまだ泣いていて(あ、私もか)、彼の指先を追って見れば、夜空には無数の星が輝いていた。
今まで下ばかり見ていたせいか、全然気づかなかったな。涙をぬぐって、夜空を見上げる。
「ねぇ真田、」
「何だ」
「幸村も星になったのかな」
「…あぁ、」
「そうしたらきっと、すごく綺麗な星なんだろうね」
たとえ一億個でも百億個でも、どれだけの星があろうとも。君は変わらず光りつづけて、きっと私たちを照らしてくれるのだろう。そうしたら私は、必ず君を見つけ出すよ。
8月XX日 天気:晴れ
今日は、夢をみた。白いワンピースを着た彼女がクローバーの上に座って微笑んでいた。すごく綺麗だった。
たしかクローバーの花言葉は、「約束」とか「私を思いだして」だったかな。
思い出さなくてもずっと君のことを考えているのにね。彼女のためとはいえ、別れたのが正しいのかは分からない。
会いたい。会って、手をつないで、また前みたいに河原を散歩して。
思い出したら、涙が止まらなくなった。蓮二が言っていた、今日の俺はどうやら笑ってばかりいたらしい。