確かに私は彼のことを愛していて。彼からもまた、同じくらいの愛をもらっているのだと思っていた。
 幸村が病気と聞いたときも、悲しさよりも何よりも先に、私が支えなきゃって思った。そう言って抱きしめたとき、ふわりと微笑む幸村がひどく儚く美しく見えたのを覚えている。やっぱり好きだ、と思った。



「ちょっと、待ってよ…」
「何?」
「どういう、こと?」
「そのままの意味だけど」


 明日から入院という今日、教室で荷物を片付けていたとき、幸村から言われた別れのことば。それはいかにも唐突すぎた。しばらく言葉を発せないわたしに、幸村は躊躇なく冷たい視線をそそぐ。


「真田、」
「…え?」
「水瀬を連れてって」


 ガタッ、教室のドアがあいた。いつも以上に眉間にシワをよせた真田がそこにはいて、幸村がそう言うや否や、私の腕をつかむ。


「ちょっ、離してよ!」
「行くぞ」
「やだってば!私は幸村と話があんの!!」
「……」
「幸村、なんで!?私何かした?」
「…しばらく、一人にさせてほしい」


 「え…、」夕日が照らす幸村の顔が、悔しさと悲しさと、そんな感情を映し出していて。どういうこと?わたしはますます分からなくなる。
 そして、やっぱり男の力には敵わなくて、真田に引っ張られるように昇降口を出た。


「もっ、分かった、からっ!離してよ」
「……」


 走ったからなのかな。上手く息ができない。下を向いて呼吸を整えていたら、ふいに視界がゆがんだ。液体がコンクリートをぬらしていく。


「…っく、うぅ…」
「……」


 きっと泣いてるんだ私。どこか他人事のように思えて、袖でぬぐうことはせずにただただそれはコンクリートをぬらしていった。

 幸村に、大好きな人にフラれた。私の一方通行だった?今は幸村の「好きだよ」という言葉さえも、とけて曖昧になってしまう。
 真田は何か知ってることくらい分かっていたけれど、聞く気にはなれなかった。


「水瀬、」
「…な、に?」
「な、何かあったら俺を頼れ」



 きっと真田なりに気をきかせて言ってくれたんだと思うんだけど、それは私が幸村に1番言いたかったことばで。今頃幸村は何を思っているんだろう、そう思うと非力で無力な自分が悔しくなった。


「…俺が、いる」


 え、言うが遅いか真田に手をひかれ、顔を胸におしつけられる。ドクドクと、必死に脈をうっている心音が逆につらかった。幸村は生きる、そう信じていたのにそれが覆されるような気がして。


「…っごめ、」


 真田の腕をふりはらい、私は行くあてもなく走り出した。
 涙はまだ、止まらない。






「真田、」
「なんだ、幸村」
「僕の代わりに、彼女を頼むよ」


――――
ありきたりですみません…!
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