キーンコーンカーンコーン。遠くで授業開始を告げるチャイムが鳴っている。こんな天気のいい日に教室で授業なんかやってらんないし、そんなことを思いながら、パンの耳の入った袋を持って学校の裏山へ向かった。
「やっほ」
「おおー久しぶりたい」
最近は屋上を使ってたから。そう付け足して、同じように彼の横に寝転がった。
「そんパン耳どげんしたと?」
「仲良いパン屋さんからもらってきた。さっきまで部室の横でハトたちにあげてたの」
「アイツら元気にしとった?最近見とらんから」
「おー、元気すぎてフンいっぱいしてたよー」
「片付けが大変たいね」
「そうだね。がんばって千歳」
「なして俺!?」
ふわりと風がそよぐ。
加えて、今はお昼あとの時間帯。周りは風の音と、それから、校庭や音楽室から授業中の声が聞こえるだけで(そんな音でさえ気持ち良いのだけれど)、とても静かな空間だった。
「いい天気だねー」
「そうやねー」
「風も気持ち良いねー」
「そうやねー」
「あ、あの雲リンゴみたい」
「どっちかって言うと洋梨じゃなかと?」
「そんでアレは今朝のトーストかなー」
「ジャム瓶発見!」
「ざーんねん。今日はシュガートーストでした」
ふわり。再び優しい風が頬をなでた。どこからかキンモクセイの香りが運ばれてくる。もうそんな季節か、なんて思いながら目を閉じようとしたら、これまたふわりとした感触を感じた。
ふわり…?
千歳との間を見てみれば、そこには小さな子猫がいる。
「わー久しぶりー!元気だった?」
「最近はよくこの時間にココに来るとよ」
「そうなんだ。相変わらずふわふわだね、ヨモギ」
「ヨモギ?」
「ヨモギちゃんっていうの」
「この子は男の子たい」
「えーじゃあヨモギくん」
「なしてヨモギ?」
「前、ここらで摘んだヨモギで作った団子食べてたんだけど、そんときにお裾分けしてあげたんだ。だからヨモギ」
「おー、ヨモギよかったなぁ」
「ふっさふさふさふさー」
ぎゅうっとヨモギちゃん…じゃなくてヨモギくんに抱きつく。ていうか、小さい子には“くん”でも“ちゃん”でもよくないか?…まぁいっか、なんて思っていたら、「お前ばっかズルい!」といって私たちに抱きついてきた。
「ふさふさふさー」
「千歳の髪ももしゃもしゃもしゃー」
「むぞらしか〜」
「ハハハッ。ちょ、そんなにキツく抱きしめたら死んじゃうよ〜」
ああ幸せだなー。ヨモギも相変わらず可愛いし。明日からも毎日この時間にココに来ようかな。そしたら4限はサボり決定、それって私進級できるのかな。隣の千歳を見てみれば何故か安心してしまったので、とりあえず千歳の髪とヨモギのフワフワヘアーをわしゃわしゃしといた。
「あ、これいる?パン耳」
「にゃあ〜」
「ほい、千歳にも」
「なかなかうまかよ」
「でしょー」
「おーヨモギも食っとる食っとる。うまか?」
「にゃー」
「そうかそうかー!」
「むぞらしか〜っ」
「なんかさ、千歳と結婚したら毎日楽しそうだよねー」
「ヨモギを娘に入れるたい!」
「それを言ったら息子でしょ」
「あははっ」
三人でパン耳をもしゃもしゃ食べ終わったあと、ヨモギくんは私に寄り添ってうとうとし始めた。ほんっと可愛いなぁ。それをみた千歳が、再び「お前ばっかズルい!」と言って、結局三人で横になることになった。もちろん、二人の間にはヨモギくん。うとうとしてるけど、なかなか寝ないなぁ。…いいことを思いついた。
「ねぇキミ、猫の事務所知らない?」
それを聞いた千歳は、猫の恩返しのセリフだと分かったらしく、パアッと目を輝かせて続けた。
「た、助けてほしいたい」
「……」
「……」
「あははっ、」
「ふふっ」
「さすがに無理だったかー」
「ばってん、こん子ユキちゃんにそっくりたい」
「ほんとだー!」
「猫ん国行ったらみんなみんな抱きしめちゃるっ!」
「私はバロンと結婚したいなー。バロン超かっこいい」
「そんなら俺はユキちゃんと結婚するたい!」
「ダメだよ、ユキちゃんにはムーン皇子がいるもん」
「ふふっ、そうたいね」
キーンコーンカーンコーン。再びチャイムがなる。次はたしか、音楽だったかな。ここにいる時間が好きすぎて離れたくないな、そう思って千歳を見てみたら彼も同じように思っていたみたいで。目があって笑ってしまった。しばらくココにいよう。
「陽のあたる〜坂道を〜」
「自転車で駆けのぼる〜」
「千歳下手ー」
「ばってん、俺は音楽苦手たい…」
「でも好きだな」
「ほんと?」
「うん」
「君と失くした想い出乗せて行くよ〜」
「ラララララ〜口ずさむ〜くちびるを染めてゆく〜」
君と見つけた幸せ
花のように
ふわり、やわらかい秋風が彼らをさらった。
――――
♪風になる/つじあやの
歌詞とタイトルお借りしました。猫の恩返し見たら書きたくなった。
千歳とこんな会話がしたい。