「ごめん。私実は、宇宙人なんだ」


 放課後の社会科資料室。夕日が差し込む室内は、普段とは違う特別な雰囲気に包まれていて。そう、ドラマだったらここで告白して付き合って、みたいな。そんな雰囲気の中、こいつは真面目な顔でこう言った。

 「もっとマシな嘘つこか」今日がエイプリルフールで、イタズラ好きの柚が何かを仕掛けてくることは一週間前から分かりきっている。俺は肩にかかったホコリを払って、社会の先生から任された資料の整理を続けた。


「嘘じゃないからね!」
「そか」
「あと、お母さんは火星人でお父さんは木星人なんだ」
「火星人と木星人が結婚すると地球人が生まれるんか」
「で、おばあちゃんが土星人なんだけど。この前ね、この土星の石もらったんだ」


 そういってコイツがポケットから出したのは、地学教室で見たことのある方解石だった。バレないとでも思ってるんか。ワクワクした目で俺を見てくるもんだから、金ちゃんをあやすときと同じ声音と表情で「よかったな」と返してあげた。


「まだ信じてないでしょ」
「そないなことあらへんで」
「だって全部棒読みじゃん」
「そか」
「もういいや。それでね、百万年くらい前に…あ、一千年前だ。そんときに宇宙大戦争があって、火星金星連合軍が水星地球連合軍に勝ったんだって。それで私が人質として地球に送られたんだ」
「なんで勝った方が人質送んねん」
「あ、間違えた。勝ったのは地球土星連合軍だった」


 もうグダグダや。何これ、俺はいつまでこいつに付き合えばええんやろか。まぁ一生懸命考えてしゃべってるコイツは面白いし、可愛いし。…あれ、可愛い?なんで宇宙大戦争を語ってるやつが可愛いねん、アホか俺。
 しばらく黙ってる俺を見て柚は、「まだ信じないんなら最終兵器があるんだから」と言ってまたポケットをごそごそと漁りだした。くしゃっと丸められた紙、…あたかもノートの隅を破ったような紙を出した。そこにはワカメみたいな白鳥みたいな自転車みたいな(どんなだ)記号が書かれている。


「これ、宇宙人の証なんだよ!」
「(…財前に書かせたな)」
「何、黙っちゃって」
「……いや、なんも」
「分かった!これ欲しいんでしょ」
「いらんわ!」


 財前も共犯か…。とすると、何が目的なんやろう。うーんと考えてみるけど、特に思い当たる節も見つからない。


「それでね、」
「なん?」

「私、明日から火星に里帰りするんだ!」


 こいつは恥ずかしげもなく、そう叫んだ。ちょ、廊下にもれたらどうすんねん!俺こいつとは無関係やから!そう言って回りたい。
 俺がどんな反応をするのかが気になるのか、柚は期待をこめた目線でじーっと俺を見てきた。え、なんて言えばええの?えっと、えっと。


「お、お土産は月のカケラがええな」
「……」
「……」
「…え、」
「え?」
「わ、私がいなくなっても寂しくないの?」


 え、いや、え?いなくなるも何も、え?しばらく混乱してる俺だったが、はっと前を見てみるとさっきとはうって変わって怒った目をした柚がいた。


「白石のバカ!もう知らない!」
「え、だって嘘やろ?」
「う……そ、かもしれなくもなくもない」
「どっちやねん」
「私明日、スペースシャトルで飛び立つから!」
「そか」
「無重力なんてお手のものだから!」
「そか」
「し、白石のこと、大好きなんだから!」
「そか………え、」
「……」
「……」
「や、やっぱり嘘!」
「は?」
「…そのまた、ウソ?」
「へ?」


 何故疑問系?柚は困ったような恥ずかしがるような表情でうつむいた後、「やっぱり、嘘の嘘の嘘の嘘!」と叫んで資料室をダッシュで出ていった。何やったんや…。
 俺はただ呆然とすることしかできなくて。追いかけるなんて、できるはずもなかった。

 次こういうことがあったら、「お前のオカンとオトンに挨拶に行くために宇宙服買うわ」って言ってやろうと思う。




「ざいぜーん!失敗だった…」
「あー…、『宇宙大戦争』もダメだったんか」
「うあー、どうしよう」
「クリスマスもバレンタインも失敗したからな。次は部長の誕生日やろ」
「次は『歯みがき粉を食べると腕が伸びる』でいこっかな…」
「いや、それでどっから告白に持っていくねん」



――――
何だこれ(笑)
財前はきっと面白がってます。


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