「真田君大丈夫ですか?」
「うん、酔ったみたい」


 そう、一人を除いて。少しだけ帽子を深くかぶっている真田の顔はよく見えないが、何やら紫のウヨウヨしたオーラが“気持ち悪い”と訴えている。
 私が席を開けると、真田は倒れ込むようにベンチに腰かけた。


「あ、アイス食ってる!ずりぃ」
「いる?」
「ん、美味い」
「抹茶だもん」


 いや、ほのぼのしてるけどね。ブン太が私のアイスをパクパク食べてる隣で、真田は深く帽子をかぶってベンチに寝ていた。大丈夫なのかな。本当に死んでない?


「さなだー、帰ってきんしゃい」
「…にお、…耳元で、叫ぶな…」
「いや、叫んでないっすよ」
「とりあえず私、冷たいもの買ってくるね」


 あー私のアイス、帰ってきたらブン太が完食してるんだろうな。ちきしょう。そんなことを思いながら、無難なスポドリを買いにいった。

 暫くすると、真田は落ち着いたようだった。


「いやー真田はこういうの強いと思ってたんだけどな」
「かく言う幸村は大丈夫だったの?」
「ばっちり!真田の映像も撮れたからね」
「いや、撮るなよ」
「真田大丈夫?」
「あぁ。心配かけてすまないな、水瀬」
「丸井先輩と仁王先輩!次はお化け屋敷行きません!?」
「お前はちょっとは先輩を心配しろ」
「おーいいぜ。だったら柚も連れてこうぜぃ」
「……は?」


 いやいやいや、何度も言うけど私は遊園地とは無縁の人間なんだってば!絶叫系もホラーも本当無理なんだって!
 慌てて同志の柳生を見てみれば、無言でうなずいていた。…いや、それは何に対する頷き?


「いや、私このあと柳生と空中ブランコ乗るからさ」
「えー」
「あ、あと、またメリーゴーランド乗りたいなぁって」
「いいから先輩、行こーぜ」


 いいから!?いいからって何!?

 結局、未だ体調が優れない真田の面倒は蓮二が見ててくれるらしく(私が見たかった)、私とそのとばっちりを受けた柳生は、理不尽な理由で仁王ブン太赤也ジャッカル幸村に引きずられるようにしてお化け屋敷に連れ込まれた。

 途中、「いーやーだー!!本当に嫌だ!助けて不審者に連れ去られるぅー!」と恥も捨てて泣きわめいたが、幸村の「静かにしようか」に気圧されてお口にチャックをした。オバケも怖いけど、幸村もそれに匹敵するくらいいやもしかしたらそれ以上に怖いものだと改めて思った。


「ぎぃゃやあああ」
「いぁああああ」
「いや、まだ何もでてないから」


 それからはもう地獄だった。悪霊退散と書かれたお守りをオバケに投げれば一時的に止まってくれると言われたので、来る度に投げたのだが究極の状況下ではコントロールがうまくいかず。そのくせ早いものだから、オバケさんも「え、今猛烈に早く飛んでいったのは何?」と思ったのだろう。まったく役に立たなかった。

 周りを見てみれば、幸村は「オバケ?来るなら来てみなよ。返り討ちにしてあげるから」と神の子スマイル(別名魔王スマイル)でオバケを脅すし、仁王はフラフラどっか行っちゃうし、赤也とブン太はケラケラ楽しそうに笑ってるし。ダメだ、役に立たねぇ。なので、私は必死にジャッカルにしがみついていた。手をにぎるとかロマンチックなものではない。足をジャッカルに絡ませ、ピーピー泣きわめきながら、藁にもすがる思いでジャッカルにしがみついていた。ふと、隣を見てみれば、柳生が気絶しながらも「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時…」と般若心経を唱えていた。
 何だこれ何だこの状況。なんで私はここにいるんだ。「暑苦しいんだけど…」そんなジャッカルに顔面パンチをくらわしてやった。



「どうだった?」
「あぁ、二人とも気絶しちゃったみたい」
「ご愁傷様だな」
「なー、あのしゅじゅちゅしちゅのさー」
「ブンちゃん、言えてないぜよ」
「あ、あの手術室のミイラリアルだったよなー」
「ひぃええええ」
「あ、生き返った」
「柳生、だめだ柳生今からメリーゴーランド行こう」
「癒されたい…」
「だめだよ、みんなでこれから観覧車に乗るんだから」
「え」


 言い忘れてました。そうだ、そうだよ。私、絶叫系とかホラー系とかいう以前に、

高所恐怖症だった…。

 以前、何にも乗れなかった私に友人が「あんた何しに来たの」と言っていたのを思い出した。
 またまた慌てて同志柳生を見てみれば、彼は「それなら」といつもの紳士に戻っていた。ええええ、同志じゃなかったの!?一緒にメリーゴーランド乗るって言ったじゃないか!


「で、でもさ、こんないっぱいじゃ乗れないよ」
「何とかなるなる」


 結局、私はみんなには逆らえないのでした。

――――
まだ続きます。


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