本日晴天、絶好の遊園地日和。雨でも霰でも槍でも降ってくれればよかったのにな、と思いながら寝不足ぎみに出発した私だったが、いろいろ、本当にいろいろあったけど普通に楽しかった。




 事のきっかけは、私が夜更かしした後、スヤスヤ気持ちよく寝ていた日曜日の朝のことだった。ピピピピと携帯が鳴る。アラームとは違う音だし…なんだこれ?ショボショボする目で携帯のディスプレイを見てみれば、そこには神の子幸村精市の名前があった。

(………よし、)


 無視だ。こんな朝早くに幸村から電話なんて、すごく嫌な予感がする。こういうときは無視が1番いい。

 しかし。

 携帯は一向に止まる気配がない。ピピピピピと鳴いている。ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ…


「うっせぇぇぇえ」
「ふふ、おはよう」


 どうやら私は、電話に出てしまったようだ。ふふふ、何ということだ。幸村様が電話の向こうでお怒りになっていらっしゃる。


「…っあ、やべ」
「ところで今日暇?」
「すみませんカーテンを洗濯しなくちゃいけないので暇じゃないです」
「あのさ、今からみんなで遊園地行こうって話になったんだけど」
「話聞いてぇぇ!無視かよ!だったら最初から聞くなよ!」
「ふふ、何か言った?」
「イイエ」
「言葉遣いには気を付けてね。今家の前にいるから」
「誰の?」
「君の」
「は!?」


 カーテンをシャーっとあけて確認してみる。いた、いたよ。変な集団が家の前でたむろしてる。ちょ、赤也手ぇふんな!


「あと五分で来てね」


 怖えええ、幸村様超怖えええ。有無を言わせない幸村の笑顔の前で(電話でも分かるとか怖いなオイ)拒否することなどできず、私はノロノロと支度を始めた。財布と携帯と、あ、早くしないと神の子もとい魔王に殺される。急いで玄関に向かった。


「おまた、せ…」
「遅い!」


 玄関を出たら真田がいた。私服の真田だ。苦手なものを聞かれたら、流行と答える真田の私服だ。

面白くないわけがないじゃないか…!!


 いつもの帽子に蛍光イエローのTシャツ、その裾をちょっと短めのジーパンに入れている。やつは恥ずかしげもなくそれを着ていた。むしろ堂々としている。因みにTシャツには蛍光オレンジで“LOVE YOU”と書かれている。え、意味わかってるよね、あなたを愛して下さいだよ!?しかも蛍光イエローに蛍光オレンジとか目チッカチカするんだけど!見えにく!


「あ、俺の服だが…」

 え、何改まって。文句言うな!とか?いや、文句は言わないけど。個性的でいいんじゃないかな、ウン。


「み、みんなが誉めてくれたのだ…!」


 えええええええ。何それ何その顔!いかにも感想求めてますな顔!
 慌てて真田の後ろを見れば、みんなが吹き出しそうになっていて、目で“誉めろ!”と訴えていた。誉めろって何を!?これの何を誉めろというのだ。けなす材料は余るほど見つかるのに、誉める材料はまったく見つからない。あれれ。
 真田を正面に出してきたのはこれが狙いだったのか…!


「うん、いいんじゃないカナ。すごく似合ってル」
「そ、そうかっ?」
…まじダサいからそれ、え、かっこいいと思ってんの。目にも空気にも地球にも毒なんですけど。今すぐ地球から出てけよ、大気圏出て燃え尽きろよ
「なんか言ったか?」
「ううん!あ、でもさぁ、パーカー羽織ったらもっとよくなるんじゃないかなぁ。私の貸してあげるよ、はい」
「し、しかしそうするとお前が…」
「いいのいいの!私は別の着てくから!」
「しかし…!」
「ほんっといいから!もうどんどん使って!昨日洗濯したばかりだからサ!」
「でも…」


いいから使えって言ってんだよクラァ!!

 いやいやいや、そんな格好の真田の横を歩く身になってくれ。絶対いやだ。もう外出れない。

 押しつけるように真田にパーカーを着させ(もちろん全閉)、ようやく出発した。運転役は休職中のジャッカルのお父さん。暇だからまぁいっか…ゴホンゴホン、お世話になります!

 車の中ではブン太がもしゃもしゃおかしを食べてたり(朝からよくそんなに食べれるねぇ)、しりとりでは意外と仁王が弱かったり、蓮二の将棋の強さに脱帽したり。あっという間に時間は過ぎて、気づけば遊園地に着いていた。


「まず何から乗るー?」
「手始めにアレとかどうっすか?」
「アレっておま!手始めってレベルじゃねぇだろ」
「何あのジェットコースター、ぐりぐる回ってるんだけど。ねぇ死なない?死なないよね?」


 ジェットコースター、実は苦手だったりする。絶叫系とホラー系は無理なのだ。本来遊園地とは無縁の人種なのだ。遊園地の方もこんな人間お断りのはずだ。
 隣では同じようにジェントルマンこと柳生が顔を真っ青にして立ち尽くしていた。


「え、柳生。え?」
「な、何ですか?」
「柳生怖いんじゃろ?ジェットコースター乗れるんか?」


 そのとき、私たちの前をすごい早さのジェットコースターが過ぎ去った。ひぇぇえ怖ぇぇえ。何あれ死ぬよ。


…無理です!


 わぉ、すごい笑顔。テニス以外で、こんな汗ダクのジェントルマン見たことない。
 みんなにはジェットコースターに行ってもらって、私たち二人はメリーゴーランドでウフフアハハしながら過ごした。楽しいね楽しいなコレ!


「お馬さんパッカパッカ〜!」
「柚さん、次はととっこハム次郎のゴンドラの乗りましょうか!」
「わっほーい!乗ろ乗ろ!」


 ちょ、やべ超楽しい!メリーゴーランド超楽しい!

 ブン太に連絡を入れてみたら、思いの外並んでいるみたいで時間がかかりそうとのことだったので、私と柳生はととっこハム次郎のアトラクションに向かった。
 ちょっとだけ柳生と近かったけど、そんなことはどうでもいい。やっべハム次郎可愛い!とにかく楽しかった。

「これ美味しいね」
「そうですね」

 ベンチで二人ならんで抹茶ソフトを食していると、ジェットコースター組のみんなが帰ってきた。みんなの顔は晴れ晴れしている。…一人を除いて。
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